食堂車での贅沢なひとときを過ごし、余韻に浸ったまま再び自室へ。大きな窓には、見慣れた噴火湾。太陽の名残もあと少し。
景色は色を失い始め、海と空の境界が溶けかけている。この眺めを最後に、噴火湾ともしばしの別れ。帰路の車内で眺める夕暮れは、いつも寂しさに溢れています。
暮れゆく海をつまみにおたるワインを。北海道を離れる寂しさを紛らわしてくれる、すっきりとした白ワインと、部屋に流れるゆったりとした時間。ワイン片手に列車の揺れに身を任せれば、この時間が永遠に続けばと願わずにはいられません。
車窓は刻一刻と夜へと向かい、ルームランプの存在感がどんどんと増していく。部屋は重厚な雰囲気に包まれ、ワインだけではなく、この空気感にまでも酔ってしまいそう。
そしてついに北の大地は光を失い、漆黒の中を駆けるいつもの北斗星に。こうなると、することはいつもひとつ。お酒片手にこの旅を反芻し、想い出に変えてゆくだけ。
時折流れる灯りを目で追いながら、青森、北海道での出来事を噛みしめ味わうワイン。今日はいつものそれに彩りを与える、ロイヤルの圧倒的な雰囲気。今まで体験したことのない列車旅に、心はすっかり蕩けてしまうのでした。
長万部を過ぎて少し過ぎた頃、まったりと溶けた心と頭を醒まそうと、初めての列車内でのシャワーを浴びることに。
車輪の刻むリズムと揺れを感じながら浴びるシャワーは新鮮な体験で、狭い列車内でこれほどの贅沢を味わえるなんて感激そのもの。
ふかふかのタオルで体を拭き、爽快な気分で過ごす湯上り。シャワーで曇った窓には、滲む灯りが右から左へと次々に流れる。本当にこの瞬間が永遠になれば・・・。くどいようだが、そう強く思わずにはいられません。
アイスペールの氷が溶けて無くなる前に、ウィスキーをロックでちびちびと。一人用個室という、ホテルとは違ったこの凝縮された空間で味わうウィスキーはひと味もふた味も違う。
今日は明るいうちから乗車したからか、いつもの北斗星で過ごす時間よりもっとゆったりとしたものに感じます。そうなればお酒が一層進んでしまうというもの。札幌駅改札近くのお土産屋さんで仕入れた、どぶろく一魂を開けます。
甘口と書かれている通り、アルコール度数は7%と低め。にもかかわらず、飲み口はガツンとしており、日本酒味のおかゆといった重厚さ。これまで飲んだどぶろくの中でも、かなりのドロドロさ。味も飲み口も印象に残る、個性の強いお酒です。
気が付けばもう函館に到着。いつもなら服に着替えて最後の北海道としてホームへ降りるのですが、今日はそれすらしたくないほどこの空気感にどっぷりと浸ってしまっています。おそるべし、ロイヤル。リピーターが多いのにも納得。
北海道で過ごせる時間も残りわずか。あと数十分もすれば青函トンネルに突入し、北の大地との別れとなります。
北海道で味わう、この旅最後の北海道。新十津川町の金滴酒造が作るどさんこ衆で、今晩のフィナーレを飾ることに。
このお酒はラベルに北海道の方言が書かれており、色々ある中から「めんこい」をチョイス。小さい頃に、じいちゃん、ばあちゃんからこの言葉をたくさん掛けてもらったことを懐かしく思い出します。
辛口の北海道らしいお酒に酔いしれ過ごす夜。まもなく列車は青函トンネルに突入。漆黒の闇に包まれた車窓に変化はさほどなく、突如部屋を包む轟音が、そのことを教えてくれます。
いつもなら、トンネルを抜けて本州へ出るまで起きていますが、せっかくのロイヤル、この分厚いベッドでゆったりと寝ないと、その真価を味わったとは言えません。
寝る前に海の真下でシャワーを浴びるという非日常を味わい、寝床へ。乗り慣れたバネのきいた寝台とは一線を画すしっかりとした寝心地。その心地よさに、あっという間に夢の底へと連れて行かれるのでした。
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