寝心地の良いベッドのおかげで、すっきり爽やかな目覚め。カーテンを開けると、阿武隈急行の車両がお出迎え。すぐに福島駅だと分かります。
福島駅。新幹線でなら東京と目と鼻の先と言ってもいい程の距離。この列車旅も、残すところあと僅かとなりました。
ゆっくり身支度を整え、のんびりと待つ食堂車営業開始の放送。6:30、郡山付近にて食堂車は営業を開始。まだ少々早い気もしましたが、混雑する前に朝食をのんびり楽しもうと、食堂車へと向かいます。
北斗星がまだ2往復体制だった頃、僕は好んで北斗星4号に乗車していました。その頃はまだ和朝食が健在で、松花堂風の立派な器に盛られていました。
その後、朝食メニューはおかずが和洋統一され、パンかご飯かを選ぶだけに。旅先では断然和朝食派の僕にとってはあまり魅力がなく、以降自室で駅弁を食べることにしていました。
ところが、最近になって再び和朝食が復活したとのこと。そうとなれば、朝の清々しい雰囲気の食堂車の雰囲気を楽しまない手はありません。
当時とは走行場所も、上野まで残された距離も、そして盛り付けられた器も全く違いますが、それでもこの明るい朝の食堂車で朝食を摂れば、高校時代に初めてこの場で朝食を食べた時のことを懐かしく思い出します。
決して乗車回数は多いとは言えませんが、中学時代に初めて乗車して以来、既に生きてきた年の半分以上の間関わりを持ち続ける北斗星。何度乗っても新鮮で、何度乗っても懐かしくもある。この列車は、僕の中での列車旅の完成形のひとつ、そう断言できます。
久々に味わった、食堂車での朝食。そこでしか味わうことのできない、かけがえのない時間に後ろ髪を引かれつつ、食堂車を後にします。ありがとう、グランシャリオ。きっと、また次もあるよね?
自室の車窓に広がる東北の山々と田園風景。この景色も残りわずか。迫る山を越えれば関東平野へと突入し、一気に現実の世界へと引き戻されることでしょう。
コンコンとノックされたドアを開けると、食堂車のアテンダントさんがモーニングコーヒーと朝刊を持ってきてくれました。これもロイヤルならではのサービス。前日にウェルカムドリンクを持ってきてくれた時に希望の時間を聞いてくれます。
列車はすでに関東入りを果たし、気のせいか、見える山々も東北のそれとは違った姿に映ります。
食後の美味しいコーヒーを飲みながら、ぼんやり眺める曇り空。
ずるいよ、北斗星。余命がいつまであるかも分からないのに、またこんな新しい魅力を見せつけて。そんな僕の心を映し出したかのようなどんよりとした空。
列車は見慣れた通勤電車をゆっくりと追い越し、荒川を渡ってついに東京へ。
列車は札幌から遠路はるばる約16時間半を掛け、無事に上野駅に到着。「うえの~、うえの~」と響くホームへ乗客を一斉に吐き出す姿に、鉄道の本来のあるべき姿が重なるかのよう。
蛍光灯を鈍く反射する、輝く車体。ブルートレインが誕生して半世紀以上。その最終末路の一端を、この北斗星は地道に、力強く、ひたすら繋ぎ続けています。
東洋一の走るホテルとの鳴り物入りで誕生したブルートレイン。僕の子供の頃はまだ飛行機は一般的な乗り物ではなく、上野口、東京口から幾多ものブルートレインが旅立っていました。
その後新幹線や飛行機が移動の主役となり、段々と時代についていけなくなってしまったブルートレイン。たったこの短期間で壊滅状態になるなど、全く想像すらしていませんでした。
文字通り栄枯盛衰の道を辿ったブルートレイン。それでも、約四半世紀前に生まれたこの北斗星は、未だに多くの人々を乗せて本州と北海道を結んでいる。
渋い輝きが美しいエンブレムに託された、登場当時の想いと今も背負い続ける青函連絡の使命。年を重ねてこの列車がベテランになるにつれ、いぶし銀とも言えるような輝きは増すばかり。
ベテラン選手を従え、青森から力走を続けてきた新型機関車。若造ともいえるこの車両には、若さからくるまた違った輝きに満ち溢れている。
あと数年すれば、新幹線は青函トンネルを通り抜け北海道へ上陸。あくまでも僕個人の考えですが、その時が北斗星にとっての一番の山場になることでしょう。
それでも、このように年間を通じて乗車する人が多く、ロイヤルに至っては登場から今までプラチナチケットの座を明け渡そうとしない。これは、乗る人が飛行機や新幹線とは違った価値をこの列車に見出しているからこそ。そこに、夜行列車の生き残るためのヒントが隠されているように思えてなりません。
6日前の夜、このホームから始まったこの旅。あけぼの号で古き良き寝台列車の旅情を味わい、北斗星で贅を尽くした移動空間を知る。
設備も性格も異にするこの2つの列車ですが、共通しているのはただひとつ、どちらも移動手段として成立し、人々に選ばれているということ。
この輝く新しい機関車のように、新しい客車を作ってくれたら・・・。日本に僅かばかり残された鉄道の歴史の火を絶やしては、きっと取り返しのつかないことになる。
そう思いつつも、この日本が数十年の間に数々のものを捨てて来てしまったという事実を考えれば、夜行列車が無くなるのも必然とも思えてきてしまう。
その最期の瞬間がいつ来るのかは誰にも分からない。ただ、車齢から考えても、そう遠い未来では無いかもしれない。
僕は今回のあけぼの、北斗星乗車が乗り納めになるかもしれないという覚悟で、この旅に臨みました。そう思っていても、やっぱりまた乗りたくなってしまう。
ブルートレインの深い青には、旅情、使命、歴史・・・、人を魅了するものが目一杯詰まっている。その思いを乗せて、今宵も夜の闇へと消えていくことでしょう。
ありがとう、あけぼの号。ありがとう、北斗星。今回も、本当に、本当に、いい旅になりました。最期の時まで、僕は絶対に離れられない。またいつか、その深い懐で僕を包み込んで下さい。
夜を駆ける英雄の、末永い活躍を願って・・・。
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