古き良き湯治場の風情を色濃く感じさせる、藤三旅館湯治部。深さが特徴の白猿の湯もさることながら、他のお風呂も居心地の良いもの揃い。
館内5か所ある浴場のうち、湯治部にある河鹿の湯は一番シンプルで鄙びた作り。静かな午後を過ごそうと、誰もいない浴場へと向かいます。
一歩中へと入れば、ガラス越しにこれでもかと溢れ注ぐ陽の光。清潔感溢れるタイル張りの浴槽に掛け流された温泉は、その光を浴びてきらきらと輝きます。
シンプルだけど、そこが良い河鹿の湯。静かな環境の中で味わうお湯は、皮膚を通り越して心の中まで沁みてゆくよう。
湯けむりに包まれる浴室で柔らかいお湯を堪能した後は、やはりお待ちかねの冷たいビール。自販機よりも安く売っている館内の売店でおじいちゃんから購入。
木枠の窓の外は、さらさらと流れる豊沢川とそれを彩る秋の草木。聞こえるのは渓流の水音と、缶から漏れる炭酸の弾ける音だけ。
窓の外へと顔を出せば、すすきの河原と秋の空。抜けるような鮮やかな青空に心の疲れまで溶けだし、川音と頬を撫でる冷たい秋風がそれらを連れ去ってくれます。
こちらは川沿いの露天が心地よい桂の湯。湯船に浸かれば、秋の彩に包まれた豊沢川を独り占め。ゆっくりと流れゆく白い雲をぼんやりと眺め、出たり入ったり、いつまでも温かな湯を楽しみます。
それでもやはり一番落ち着くのはこの自室。窓からあふれる光の洪水を浴びながら、のんびりと本を読み耽る。自分を包むは時を経て味わいを増した木の作る渋い和室。こんな穏やかな午後を過ごせるのも連泊ならでは。
やっぱりここが好きだ。藤三旅館湯治部には、言い表せぬ魅力と穏やかな時が詰まっています。
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