奥甲子、山に抱かれて迎える朝。昨晩は一晩中風が吹いていましたが、目を醒ましてみればうっすらと青空が顔を覗かせています。
早速部屋を出て朝風呂へ。谷を渡る風は頬を刺すほど冷たく、まだまだここが冬であるということを今一度実感させます。
凍てついた橋の先にある温かいお湯を楽しみ、体の芯から温まったところで朝食の時間。食卓には数々の品が並んでいます。
定番の塩鮭や温泉卵、山菜、しそ巻など、どれも美味しいものばかり。特に油麩の煮付けは、だしをしっかりと吸った大きめの油麩が美味。自分で良く買う仙台油麩とはまた違った食感で、油麩好きにはたまりません。
昨夜の夕食に引き続き、美味しい朝食をお腹一杯食べ、部屋へと戻ります。先程まで覗いていた青空もすっかり姿を消し、窓の外は真っ白な雪景色。名残の冬を求めて訪れた、この旅に相応しいこの眺め。
東京から比較的近距離に、こんなに良い場所があったなんて。ここ大黒屋は改築以前から来たいと思ってきた宿ですが、今回来ることができて本当に良かった。
最高の温泉、快適な施設、そして美味しいお料理。これだけ揃えば言うことはありません。どうしよう、新幹線を使わなくても一泊二日で来れてしまう。またひとつ、また来たい宿に出会いました。
風に舞う雪を眺めつつお腹を落ち着け、大黒屋での最後の一浴を。大きな湯船に掛け流される、不思議な浴感の温泉。お湯の中で安静を保てば、まるでそこに漂っているような、不思議な感覚に包まれる温泉。そんな印象的な温泉を五感に刻み、この宿を後にします。
帰りも宿の送迎バスで新白河駅へと向かいます。その道中、きれいな眺めがあると立ち寄って見せてくれたのが、この雪割峡谷。この下を流れるのは、大河阿武隈川の源流。その川面を覗けばくらくらする程の深さで、周囲の岩の削られた姿からも、水の力の凄さが伝わってきます。
車が無ければ見る機会が無かったであろう阿武隈川の源流の景色を楽しみ、バスは更に進みます。白河市内へと入り、名所の南湖公園や小峰城跡を車窓越しに楽しみ、新白河駅に到着。こうやって送迎して頂けると、車が無くても訪れることができる。本当にありがたいことです。
そしてこの東京からの程よい距離。たった1泊ではもったいない。新緑も、紅葉も、様々な季節に彩られた奥甲子の自然とお湯に浸りたい。きっとまた来てしまうことでしょう。
お昼にはまだ少し早い時間でしたが、この後の乗り継ぎを考えて新白河でお昼を食べることに。一昨日ラーメン屋さんを探しているときに見つけた、『菜華軒』にお邪魔してみることに。
こちらは若い方がやっているらしく、メニューも麺から定食ものまで幅広くあります。が、やっぱり注文するのはこれ、ラーメン。白河を離れる前に、もう一杯食べておきたかったのです。
こちらも看板に手打ちと書いていましたが、麺はつるもちの縮れ麺。スープも澄んだしょう油で、ほっとする懐かしさを感じる旨さが漂います。
色々趣向を凝らした創作ラーメンばかりが並ぶ東京にいると、小さい頃には当たり前だったこういうラーメンを食べたくてもなかなか口に入らないもどかしさを感じます。だからこそ、頑なに美味しいラーメンを守っている街はすごいと思うのです。
ここ白河や喜多方、熊本、札幌。麺の街を訪れる度に、東京には無い「ブレない力」のようなものを感じてしまいます。シンプルなしょう油ラーメン、いいなぁ。大黒屋に来るときは、白河ラーメン巡りもセットだな。いや、蕎麦も捨てがたい。
美味に温泉にと、2泊3日楽しませてくれた白河の地を後にし、東北本線に乗車します。そのまま乗り継げば午後には自宅に着いてしまう。でも、まさかそんなことをする僕ではありません。もちろん帰り道でも寄り道を。東北本線の直流と交流の境である黒磯駅で下車します。
新幹線や北斗星で何度もこの辺りは通過してきましたが、ここで降りるのは初めてのこと。古くから那須高原の玄関口として栄えてきたこの黒磯の街を、少しの間当てもなくのんびり散策します。
特に下調べもしてこなかったので、駅前からのびる道をのんびりぶらぶら。今でこそ自治体名まで新幹線の駅と同じ那須塩原市になってしまいましたが、僕の世代では黒磯市の方が断然馴染があります。そんな歴史深い黒磯の街らしく、道沿いには古き良き建物が歩く目を楽しませてくれます。
青空と雲が行ったり来たりの忙しい空。時折風に混じる雪に、ここが関東であることを一瞬忘れてしまいそう。時間の止まったような建物につられ、僕の心も未だ東北福島に居残っているでしょうか。
ふらふらと街並みを眺めつつ歩き、大通りに出たところで右へと曲がってみることに。そのまま進むと、突如大きな橋が現れます。
何やらちょっとした名所のような雰囲気だったので、橋の袂へ降りられる階段を下りてみると、そこには立派な鉄骨アーチが横たわっています。
この橋は晩翠橋というそうで、那珂川に架かる那須と黒磯を結ぶ動脈。その歴史は古いそうで、この橋は昭和7年に架けられた5代目だそう。80年以上も前から風雪に耐えてきたアーチ橋。僕の好きなジャンルど真ん中ではないですか。
全くもって予期していなかった出会いに驚き。このときは改修工事中で一部が覆われていましたが、その全貌はきっと、荘厳で美しいことでしょう。
僕が黒磯に降り立った理由、それは那須へと向かう玄関口だから。那須と言っても高原や牧場では無く、僕が目指すのは那須の誇るあの温泉。この旅最後の温泉を目指し、バスの発つ駅へと足を戻すのでした。
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