思いがけず濃厚な時間を過ごさせてくれた三内丸山遺跡。最後の寄り道を終え、この旅の出口である青森駅へと向かいます。
三内丸山遺跡から駅までは、巡回バス『ねぶたん号』と『青森市営バス』が日中はそれぞれ1時間に1本程度ずつ、都合毎時2本程度走っているので、比較的簡単にアクセスできます。
青森滞在も残すところあと数時間。この旅最後の青森の味を楽しむべくお昼にと選んだのは、駅前のビルアウガの地下、新鮮市場内に位置する『郷土料理 津軽三味線 りんご箱』。
後はもう、お土産を買って帰るだけ。それまでの間、北の味覚と旨い酒をたっぷり愉しんでやろうと、どっしりと腰を落ち着けます。
まず頼んだのは、飯寿司盛り合わせ。さんま、にしん、赤魚の飯寿司がたっぷり盛られています。僕の大好物の飯寿司。北海道で食べるものよりもすっきりとした印象の味で、辛めの青森の地酒にぴったり。
そして青森と言えば、のホタテ貝焼き味噌。ふっくらな卵とほたてがたっぷり入った貝焼き味噌は、ちょうど良い塩梅でこれまた素朴な美味しさ。そう言えば今回はこれが初貝焼き味噌。青森に来たならば、絶対に、絶対に食べなければならない郷土料理。
続いても帆立繋がりで、バター焼きを。大きい貝に見合った大ぶりの身は、見た目通りのブリブリとした心地よい食感。火が通り旨味が凝縮したひもと卵もまた旨い。青森の帆立には心底惚れこんでしまいます。んまいっ!
席に着いて30分、程よく気分も良くなったところで、お待ちかねのメインイベント、津軽三味線の生演奏が始まります。
僕がここのお店を選んだのは、生の津軽三味線を聞きたかったから。これまでも幾度か生演奏を聴く機会に恵まれましたが、何度聞いてもその迫力に圧倒されます。
ほろ酔い加減で聴く津軽三味線の力強い調べ。打ち付けるバチから伝わる音と振動は、皮膚から心へと浸透してゆくかのよう。何度立ち会っても、全身を包む鳥肌が立ち心が震えるこの感覚。
あぁ、本当に幸せだ。青森にまたこうやって来ることができ、また三味線を聞ける。力強さと哀愁を含んだ音色に重なる僕の感情。何故だかいつも、泣きたくなってしまうのです。
短くも濃い津軽三味線の生演奏を五感に刻み込み、余韻をつまみに呑む津軽の酒。旨くない訳が無い、至福の青森での昼酒。
最後に注文したのは、これまた大好物の筋子といかの塩辛。半分ほどお酒のアテにちびちびと楽しみ、最後はご飯を頼んで幸せ気分の腹固め。余は満足じゃ。思い残すことは無い。
お昼と言うのに生1杯と地酒4杯ですっかり仕上がってしまった、ご機嫌な僕。ビルを出るとこれまで纏っていた火照りが、冬の青森の風にさらわれてゆくのを感じます。
青森を発つまでまだもう少し余裕があるので、もう一度あの女王にご挨拶を。ここに立つと襲われる、現役であるかのような悲しい錯覚。今でもこの可動橋を幾多の貨車が渡る音が聞こえてくるよう。
でも僕は、それを知らない。見てみたかった。聞いてみたかった。そして、乗ってみたかった。でもそれは、永遠に叶わない憧れになってしまった。
この時、八甲田丸は改修工事で休館中。そのためここまで来る人も皆無のようで、雪に刻まれた足跡も、ぽつりぽつり。
そんな静かな冬の午後、凍てつく海と鉛色の空の中に佇む、海峡の女王。海に浮かぶ船体を繋ぐ太いロープは静かな青森港の波に呼応し、八甲田丸が息をしている。そんなくだらない妄想までをも引き起こします。僕はそれでも思いたい。連絡船はまだ生きていると。
冬の青函連絡船といえば、切っても切れないのが津軽海峡冬景色。子供の頃から何故か大好きで、今でも好きな歌の1位タイを維持するこの歌。この歌碑の前に立てば、その歌が自分のためだけに流れ始めます。
頬を刺す空気の中、雪に埋もれるように停泊する八甲田丸を眺めながら聴く、津軽海峡冬景色。まさにこの季節、この場所にこの歌あり。流れる歌声と共に、JNRのマークが爪を立てて心に痛く突き刺さります。
寒い中での津軽海峡妄想を味わい、3日前に歩いた道を辿ろうと進んでゆくと、たったのこの数日で歩道は雪で埋まり、歩けないほどになっていました。恐るべし、青森の雪深さ。
仕方なくすぐ隣の駐車場へと進路を変更し、女王を眺める場所を目指します。ここ数日で積もった雪は、到着時よりも遥かに美しく、八甲田丸を純白で彩ります。空も海も、どんよりとした鉛色。それを覆うほどに積もる雪。冬ならではの、心に沁みる美しさ。
青函連絡船の在りし日に思いを馳せ、目に焼き付けて別れを告げます。そしてそのまま歩き、大きな三角形の建物が印象的な『青森県観光物産館アスパム』に到着。ここで色々なお土産をのんびり眺めて回ります。
でも、肝心の一番欲しいものが見当たらない。アスパムを後にし、市内のデパートを見てみても、やはり見つからない。ようやく民芸品屋さんで見つけて手に入れたのは、青森名産のヒバのまな板。
青森行きを決めた時から、お土産に買って帰ろうと心に決めていましたが、いざ見てみると、現地でも全然売っていません。お店の方曰く、青森ヒバは伐採量が制限されており、まな板が取れるようなサイズの木材が中々手に入らないとのこと。
ようやく出会えた青森ヒバのまな板は、根元に近い非常に身の詰まった、重たく硬い立派な一枚板。少しおまけもしてくれて、東京ではありえない価格でうちに連れて帰ることができました。そして2カ月たった今も、使うたびに良い香りと刃当たりで調理を楽しくしてくれています。
最後の最後まで青森を楽しみ、青森の自然が生んだ恵みを連れて帰れることの幸せ。重いけれど、その重みを楽しみながら、この旅を終える時間を迎えるのでした。
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