河童橋越しの穂高を眺めながらの贅沢なランチを楽しみ、更に上流へと足を進めます。
河童橋を超えてすぐに合流してくるのは、その名も清水川。全長300m程度の短い川ですが、夏も枯れることなく、雨でも濁らないことから、上高地の貴重な飲料水源として使われているそう。確かに、前回訪れた時は雨が降っていましたが、本流は濁っていてもこの川の澄んだ流れに驚いたものです。
湘南新宿ラインの電車1編成分の短さとは思えないほど、豊富な水量。どこまでも澄み切った水の底は、白い砂利と緑に光る藻が造る不思議な模様が横たわります。
道は清水川の源を離れ、梓川とも距離を置き始めます。森はどんどん深くなり、河童橋までの道のりとはまた違う、山を強く感じさせる雰囲気に。
途中には、行く手を阻むように腰を落とす、巨大な岩。一見取り付く島も無さそうなその岩に、しっかりと根を下ろして空を目指す木々や、別珍のような美しい苔たち。ただでさえ手掛かりの少ない岩、それも豪雪のこの地の冬を何度も越えて根を張る姿に、自然の力強さを感じます。
歩道からはすっかり川の気配を感じなくなった頃、山の尾根から一直線に落ちてくる谷に遭遇。今は穏やかな仮の姿をしていますが、大雨や雪崩のときには、それはもう恐ろしいほどの土砂や水が流れ落ちてくるのでしょう。見るからにゴロゴロと岩が転がるその姿に、軽い戦慄を覚えます。
そして直後、再びたおやかな流れを見せる碧き梓川と接近。先程のような谷から供給される岩や石が、このような白く輝く川原を造り上げています。この砂利の白さこそ、上高地の印象を一層強いものにしている要因のひとつかもしれません。
久しぶりに味わう川の爽快さに、ふと後ろを振り返れば、天を突き刺すような姿を見せる穂高の山々。岩山を覆うレースのような新緑と、粉糖のように掛かる残雪。この時期にしか味わうことのできない、僕にとって初めてかつかけがえの無い記憶となる光景。
今は穏やかに青を映しながら流れるこの川も、川原の広さと残された流木を見れば、雨の日の姿が容易に想像できます。それにしても上流だというのにこの豊かな流れ。アルプスに蓄えられた水の豊富さに驚きます。
そしてもう一度振り返り、穂高の山の姿を拝みます。
空と水と地。それらに育まれた新緑。視界の全てが総天然色。本当に良かった。ここに来られて、そして天候に恵まれて。
河童橋から上流を目指すこと約45分、宿や有名な池、そして穂高神社のある明神地区に到着。清らかな水の湧き出す湿地の周りには、ハイカーが集う賑やかな声が響きます。
午後の上高地さんぽも、ここで折り返し。道中の美しさに足を止め、予想外に時間が掛かったため、明神池と穂高神社は今回見送ることに。
まぁいいさ、また次に上高地に来る口実が出来たと思えば。それよりも、今日しか見られないこの景色を愉しもう。残る道中に期待を募らせ、足取りも軽く再び河童橋を目指すのでした。
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