窓の外、木々の若葉を通過した黄緑色の朝日に起こされる、爽やかな朝。清々しい目覚めの心地よさを余韻に残し、早速朝風呂へ。シルキーなにごり湯に体を沈めれば、先ほどまでの眠気はどこへやら、頭の芯まで鮮やかな高地の空気で満たされます。
2泊3日の旅の、3日目の朝。短いようで長い、でも充実していてやはりあっという間。行程の長短にかかわらず、この感覚を味わえるときは、充実した良い旅だという証。
早くも信州を離れるこの日をスタートさせるに相応しい、美味しい朝食が食卓に並びます。鱒の甘露煮や温泉卵、煮豆やひじきなど、ご飯を美味しくしてくれるおかずの数々。
そして今回も出ました、白骨温泉のお湯で炊いたお粥。何なのでしょうか、この独特のほんわかとした風味は。前回白骨に泊まった時も感動しましたが、このお湯で炊くおかゆは抜群に旨い。温泉自体の持つ味が、お米の芯まで染みています。普段お粥の朝食は好きではありませんが、ご飯よりもお粥を何杯でもおかわりしたい、そう思えてしまう程。
美味しい食事と、湧いたままの白骨の恵みを堪能した、丸永旅館。前回泊まった大型旅館も良かったのですが、こちらのお宿の落ち着いた静かな感じが、今の僕にはとても心地が良い。味とお湯に満たされ、思い残すことなくチェックアウトの時を迎えました。
宿の目の前がバス停のため、バスが来るまでのんびり周辺散策。奥に建つ丸永旅館のすぐ横には、独特な質感の岩が横たわります。
その独特な質感の岩場というのが、国の特別天然記念物として指定されている噴湯丘。遥か昔に噴き出した温泉の沈殿物が、幾重にも重なってできた丘だそう。
間近で見ると真っ白な部分もあり、石灰質であることがわかります。こんな大きな丘を造ってしまう白骨のお湯。木の浴槽をオブジェに変えることくらい容易いのでしょう。宿の湯船の姿と共に、お湯の濃さと力、そして白骨の名の由来を改めて実感させます。
自宅からアクセスのとても良い白骨温泉。別の季節に再訪する野望を胸に抱き、乗鞍高原から来た『アルピコ交通』のバスに乗り込みます。向かうは新島々、しんしましま。何度でも言いたくなる、しんしましま。
「み~どり~の中を~走り抜けてくアルピコ交通!」何故かこの時の僕の脳内には、この歌がエンドレスにリフレイン。そう、昨日に引き続き、アルピコ交通を包む新緑が眩しすぎる程に眩しいのです。
泡の湯バス停から新緑に覆われる国道を縫うこと約1時間、バスは新島々バスターミナルに到着。ここでもう一つのアルピコ交通、『上高地線』に乗り換え。バス停から松本駅まで直通の連絡切符を買うと割引になるので、車内であらかじめ購入しておきましょう。
前回初めて対面した時に、その変貌振りに驚きを隠せなかった、旧井の頭線のこの車両。それでも車内へと乗り込めば、座席のモケットの色や独特なファンデリアなど、現役当時の雰囲気そのまま。これで通勤していたころが懐かしく思えてきます。
ドアが閉まり、記憶の奥にある聞き慣れたモーター音を響かせ、列車はゆっくりと出発進行。現役当時にはサラリーマンや学生、繁華街へ向かう若者で溢れていたこの車両も、今は多くの登山帰りの山人を乗せて第二の人生を楽しんでいるかのよう。
「み~どり~の中を~のんびり揺られるアルピコ交通♪」学校に上がる前に出会い、通勤でもいつもお世話になっていた、この車両。この緑豊かな地で、また違ったレインボーに彩られてゆったり走る姿は、余生を謳歌している姿そのもの。
思い出に溢れた車両の元気な姿に、初めはギョッとした斬新すぎる塗装もお似合いだと、いつしか懐かしさとちょっとした切なさ、そしてほんのりとした温かさに包まれるのでした。
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