今朝までいた白銀の世界が嘘のように、穏やかな秋の温もりに溢れる盛岡駅。未だ肌から香る秘湯の余韻に浸りつつ、この旅を最後まで愉しむべく僕の好きな街へと歩きだします。
駅から市街地へと向かう道中、その玄関口として多くの人々を出迎え見送る開運橋。大河北上川を一跨ぎする優美な円弧は、何度見ても見惚れてしまう。架橋からもうすぐ70年。華奢な姿の美しい古参は、今なお現役として街と停車場とを結んでいます。
この日が来るまで、本当に、本当に長かった。やっと盛岡に来ることができました。久々の再会となる開運橋にご挨拶を終え、街を目指して進みます。
そしてもうひとつ、僕にとって欠かすことのできない大切な決まり事。橋上から望む北上川と岩手山の雄大な姿に、こうして何度もこの街を訪れることができているという幸せを重ねます。
来ようと思えば、いつでも来られる。それがいつしか、来ることすら叶わぬ日々に。そしてようやく迎えた、今回の旅。久しぶりに感じる盛岡の街並みに心弾ませ、足取りも軽く『白龍本店』へと到着します。
白龍と言えば、言わずと知れた盛岡名物じゃじゃ麵の元祖のお店。平日のお昼どきということもあり、地元の方々で賑わっています。そんな中、旅人の特権である昼ビール片手に麺を待つひととき。おつまみとして出されるきゅうりの肉味噌和えに、逸る気持ちを抑えきれません。
ちょうどべアレンクラシックを飲み終える頃、熱々に茹で上げられたじゃじゃ麺が到着。白いもち肌の麺に、たっぷりと載るきゅうりと肉味噌。そこにラー油やにんにくを好みの量加え、手早くかつ丹念にしっかり混ぜ混ぜ。全体がまんべんなく混ざったところでひと口啜ります。
あぁ、これだよ、これ。茹でてそのまま、水洗いしていない麺にはでんぷん質がしっかりと残り、それが調味料を存分に絡めとり口中へと旨さを行き渡らせてくれる。もちっと、ぺとっとした食感にアクセントを添えるきゅうりが、また良い存在感を放つのです。
麺をほとんど平らげた後は、卵を割りほぐしてお箸と一緒に厨房へ。するとそこへ熱々の茹で汁と肉味噌を入れてくれ、即席のかきたまスープの出来上がり。チータンタンと呼ばれる穏やかなスープで仕上げれば、お腹も心もじんわりとした温もりで満たされゆくのを感じます。
なんだろう、この旨さは。このブログでも毎度のように書いてしまうのですが、じゃじゃ麵の持つ独特な魅力は一体何なのだろうか。食べるごとに、更においしく感じてくる。派手さはないが中毒性のある唯一無二の味わいに、盛岡に来たらまた次もと願ってしまうのです。
魅惑の旨さの余韻を引きずりつつ、白龍本店と目と鼻の先にある櫻山神社にお参りを。こうしてお参りするのは、何度目だろうか。ここしばらくままならぬ日々が続いていたけれど、強く願えばまたこうして訪れることができる。その機会を得られたことのお礼を伝えます。
櫻山神社の背後には、独特な形をした巨大な岩が。盛岡城を築城する際に現れたという烏帽子岩は、400年以上も城下町盛岡を見守り続けています。
久しぶりに歩く、盛岡の街。魅惑の豊かな味と街を彩る秋色に触れ、早くも心は染まりゆく。この時期に来ることができたことの悦びを胸に、盛岡歩きは更に続きます。
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