水上温泉の玄関口、水上駅に到着。路面の雪はすっかり消え、関東と甲信越の違いを感じます。
駅からぶらぶら歩いて温泉を目指します。眼下に流れるのは、大河利根川。この先どんどん流れを集め、坂東太郎となるのです。上流に近いのにこれ程の大きさ。その片鱗をうかがわせます。
利根川を渡り、登り坂をてくてく進み、谷川温泉の入り口に到着。進行方向には、白い雪化粧をした美しい谷川岳が聳えています。
駅から歩くこと約30分、谷川温泉に建つ『湯テルメ谷川』に到着。町営の温泉施設です。ここでは3種の異なる源泉を楽しむことができ、掛け流しの浴槽も。
特に露天風呂は広く、下を流れる谷川沿いに造られているので、景色とせせらぎの音を楽しみながら入浴することができます。
こちらには休憩所はありますが、基本的には2時間以内の利用、食事を取れる施設も無いので、温泉メインで利用した方がいいでしょう。
この旅最後の温泉を満喫し、駅へと戻ります。電車の発車時刻まで、お土産屋さんを覗いて時間を潰します。
この日は平日の夕方ということもあり、このような感じですが、休日になればもっと賑わっているのでしょうか。僕が小さい頃に来た水上には、トテ馬車が走っていたり、旅館のお迎えがたくさん並んでいたのを思い出します。
大移動の旅も、残すところ電車2本分。高崎行きの普通列車に乗り込みます。この行先を見ればもう立派に首都圏。旅の気分から現実の世界へ、少しずつ心を切り替えていきます。
お土産屋さんで手に入れた、川場村は永井酒造の、谷川岳超辛純米酒。名の通りキリッとしたキレのある辛口のお酒を飲んでいると、列車は家路に向けガクッと動き出しました。線路に残る雪を目に焼きつけつつ、夢の中へと落ちてゆきます。
短くも深い眠りから目が覚めると、そこには雪の姿はもうありません。地域、季節を駆け巡った旅も、着実に終着点に近付いてきています。車内は帰宅の学生でいっぱい。飲み終えた瓶をしまい、日常の中へと身を投じます。
日も暮れかけの夕刻、高崎駅に到着。ここからは湘南新宿ラインで新宿まで一直線。そういえば、4日前には名古屋行きのバスからこの車両を眺めていました。本当に、これで一筆書きが終了してしまいます。寂しくも感慨深い、なんだか複雑な心境です。
このまま、ただの一都会人になってはつまりません。もちろんグリーン車で最後の宴を始めます。こちらも水上のお土産屋さんで仕入れた、沼田市の大利根酒造、左大臣純米酒。
先程まで超辛口を飲んでいたので、随分と濃口に感じました。実際のところは分かりませんが、先程のお酒よりも、香りも味も濃い、そんな印象のお酒。
そしてこの旅最後のグルメ、駅弁を楽しみます。今回購入したのは、大人の休日 群馬の風味。地元の調製元、高崎弁当が調製した、群馬を意識したお弁当です。
蓋を開けると、たくさんの種類のおかずがぎっしり詰められており、これまたのんべぇには嬉しい展開。野菜の炊き合わせや海老錦手まり、ハモのけんちん焼き、若鶏の柚庵焼きなど、どれも細かい調理が施された数々。もちろん、それぞれ美味。
特に根菜の天ぷらは、駅弁の天ぷらにしては珍しく油っぽくなく、根菜の食感と風味がしっかり生きたおいしさ。鮭の南部焼きは、まぶされた胡麻が香ばしい、お酒にもご飯にも合う一品。
そして、舞茸炊き込みご飯。群馬は舞茸が有名ですからね。玄米を自家精米し・・・とお品書きに書いてありましたが、書くだけのことはある旨さ。丁度いい薄めの味付けに、舞茸のなんともいえぬ風味が浸みています。
最近のお弁当は、確かに値段は高くなりましたが、昔よりもずっとおいしくなっている気がします。そしてご飯が違う。昔のお弁当のように、箸で持ったら全部持ち上がった、逆にパサパサでこぼれちゃう、そんなご飯は少なくなってきているように感じます。
少々高くても、旅先でその土地土地に合ったお弁当が食べられる。列車旅でこれ以上の至福の瞬間はありません。
関東に戻ってきたことで落胆していた僕を、一気に元気にしてくれたおいしいお弁当。正直同じ関東圏なので、本当に期待していなかった分、嬉しい大誤算となりました。
お弁当のおかずの数々をつまみにお酒を飲み、舞茸ご飯で〆たところで大宮を発車。列車旅の余韻に浸りながら車窓をぼんやり眺めていると、見慣れたいつもの景色が。新宿大ガード、灯りの洪水が窓からあふれ出します。
昨日の同じ時間には、携帯も繋がらない秘湯にいたのに、この変わりよう。でも、こんな環境で暮らしているからこそ、携帯も繋がらないような不便さが、ありがたみに変わるのです。そして、やっぱり僕はこの景色が好き。何だかんだ言って、結局は東京にしか暮らせない人なんですから。
きたぐに号に乗りたい、そんな突拍子も無い思い付きから始まった、この企画。大阪と新潟、どちらも生活圏とは程遠く、始めはコース取りも全く浮かばない状況でした。
そんな中、名古屋めし、近鉄特急、お伊勢さん、きたぐに号、寺泊、栃尾又温泉と、今までの念願であったものがふと浮かび、それが見事に線となり繋がりました。
普段旅程を組んでいても、こんなにきれいに思いつくことはありません。もしかしたら、思い続けていた場所に、僕は呼ばれたのかもしれませんね。それをきたぐに号がきれいに結んでくれたのでしょう。
その証拠に、一見乗り物に乗りっぱなしに見えるような旅ですが、各地で味わった経験はとても濃く深く、地域を跨ぎ、季節も跨ぐ、そんな大移動をしなければ決して味わえないような、印象深い旅となりました。
たまには違う視点から旅を計画してみればいつもとは違う経験ができる、そんなことを教えてくれる旅でした。
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