荘厳な穂高神社の余韻に包まれつつ、そろそろ穂高を離れる時間に。この旅最後の目的地である松本へと向かうため、輝く銀嶺に見守られるかのように佇む渋い駅舎へと吸い込まれます。
ホームからの優美な山並みを眼に灼きつけつつ待つことしばし、松本行きの普通列車が入線。おととい、糸魚川から始まった大糸線の旅。平岩、南小谷、信濃大町と乗り継いできた列車も、これが最後。そう思うと、何とも言えぬ感傷が胸を締め付ける。
今日一日、銀嶺の裾を紡ぐように走ってきた大糸線。車窓には北アルプスの高嶺が常に寄り添い、何度そのうつくしさに息を呑んだことか。そんな列車旅も、もう間もなく終わりを告げる。その有終の美を飾るかのような白い峰々が、だんだんと、しかし確実に遠ざかる。
糸魚川から姫川の谷底を這うようにして急峻な地形に挑み、白馬盆地へ抜けたかと思えば一気に天上の世界へ。白い山々に見送られ松本盆地へと下れば、人の営みを感じる長閑な田園越しに望む白銀の山。
この2泊3日、銀嶺と塩の道に寄り添い辿った大糸線。列車はついに松本駅に到着し、踏みしめてきた鉄路は終わりを告げる。あまりにもダイナミックで、あまりにも感動的。いつかはと願い続けてきた日本屈指のローカル線の旅の完結に、思わず熱いものがこみあげそうになる。
糸魚川から厳しい地形を克服しつつ進んできた千国街道。この旅の締めくくりは、その塩の道が目指した城下松本の象徴へ。
30年以上前、一目で僕のこころを射抜いた松本城。僕にとって忘れえぬ初恋のお城と、ついに対面のとき。何度味わっても、この瞬間はゾクゾクする。それは興奮というよりも、うまく表現のできぬ焦がれるような感情。
気高さを滲ませる黒い天守を見据え、一歩一歩近づいてゆく。お堀端へとたどり着き視界が開ければ、西日に輝く天守と白銀の山並みとの見事な共演。そういえば、この時期に訪れるのは初めてのこと。あまりの対比の妙に、改めて心を奪われてしまう。
今回は久方ぶりに天守の内部を見学することに。10年ぶりとなる再会に心躍らせ、重厚な佇まいをみせる黒門をくぐります。
門を抜けた先には、かつて本丸御殿のあったという広々とした庭園が。そこから望む天守は背後に信州の白い山々が控え、お堀越しとはまた違った迫力が。
冬晴れの西日を背負う天守閣。逆光に目を細めつつ眺めるその姿は、松本城を松本城たらしめる黒の威厳を増すかのよう。
だめだ、思うように進めない。威厳や気高さを包含するかのような強い圧のあるうつくしさに、どうしてもどうしても歩みを止めてしまう。
早くしないと、もうすぐ閉門の時間。そう思いつつも、やはり目を心を奪われてしまう。進むごとに魅せる優美な表情に心酔し、まずはその力強い姿を心ゆくまで味わうのでした。
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