新潟の幸で一杯になったお腹を何とか落ちつけ、これから心ゆくまでお湯と戯れる、贅沢な時間の始まり。
立派な梁と建具が重厚で温かい雰囲気を醸し出す廊下。夜になり一層濃くなる貝掛温泉の空気感を味わいに、大浴場へと向かいます。
古くからの眼の湯治場であるここ貝掛温泉。こんな方も湯治にいらっしゃっていたんですね。消火栓の上で湯治生活なんて、目玉おやじ、やるじゃない。
ここのお宿には2つの浴室があり、昼夜の男女入れ替え制。日暮れ後はこちらの浴場が男湯となります。
一方の浴場は非加熱のぬるい露天が大きい分、内湯は加熱の温かい浴槽の方が大きいのですが、こちらは露天が加熱のみなので、内湯は非加熱のぬる湯がメインとなっています。
まずは露天風呂へ。こちらの方が小さいと言えども十分な広さ。提灯の灯りがお湯と雪壁を妖しく照らし、この季節に来ることを選んだ自分に思わず拍手。
3月というのに顔に感じる冬の冷たい空気。この温度差が冬の露天の醍醐味だ。雪見風呂を味わう度に、一層温泉が好きになる。日本に生まれて良かったと心底思える幸せな時間を、越後の豪雪の名残がより豊かなものにしてくれます。
露天で体を温めた後は、お待ちかねのぬる湯タイム。大きな浴槽へと体を沈めれば、程なくして体を包むたくさんの泡。文字通りの不感温浴の浮遊感に包まれ、静かに過ごす湯浴みの贅沢。
目を開ければ、夜の闇すら彩りなのだと気付かせてくれる、渋い湯屋の濃厚な風情。渋い、渋すぎる。そしてどこまでも静か。そんなしっとりとした時間を過ごすのにちょうど良い温度の源泉が、体と心へと沁みてゆきます。
清らかな源泉が絶えず流れ落ちるその音だけが、ここで聞こえるただひとつの音。皮膚で味わい、耳で味わう貝掛のお湯。そして文字通り目でも味わえるのが、このお湯の一番の特長。
気が向けば目をぱしゃぱしゃを洗い、味わったことの無い爽快感に包まれる。ここ貝掛の持つ空気感に、どっぷりと酔いしれます。
焦らずとも夜は長い。そんな秘湯でのお供に欠かせないのは、もちろん地の酒。今夜のお供は、南魚沼市は高千代酒造の「うまい助純米生原酒」。越後湯沢限定だからというミーハーな理由で手に取りました。
これがまた旨い、僕好み。フレッシュでコクがあり、でも甘ったるくなく飲みやすい爽やかさ。何でしょう、今日出会った新潟のお酒はどれも美味しい。
これまでどちらかと言えば端麗辛口が好きで、新潟の酒はお米をどっしりと感じさせる重たさがあり、美味しいけれどたくさんは飲めない、そんな印象でした。
でも今日は違う。久しぶりに新潟に来るまでの間に、僕の好みの変化があったのでしょう。美味しいと思える幅が広がる、これは素晴らしく嬉しいこと。
新潟の酒の旨さを再認識しつつ過ごす夜。東京から1時間ちょっとの場所にいるとは思えない充実感に、早くも濃厚な幸福感に包まれるのでした。
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