外は本降りの雨。そんな静かな昼下がりには、静かな内湯にのんびり浸かるのもまた良いもの。ぬるいお湯が滔々と湛えられた広い湯船に体を沈めれば、おのずと無心になってゆきます。
羽を伸ばしきったところでふと上を見上げれば、落ち着いた雰囲気の湯屋を支える、立派な梁。お湯が良いことももちろんですが、このどっしりとした雰囲気の中でお湯を味わえることも、心身共にほぐれてゆく理由のひとつ。
湯屋に響くのは、屋根をたたく雨音と、お湯が掛け流される音、ただそれだけ。
湯口からは体温程度の清らかな源泉が惜しげもなく投入される姿を、飽きもせず心ゆくまで眺める。そしてそれを掬い目を洗う。もうすっかりこの感覚の虜に。
鏡のように湯屋を映す透明なお湯。静かな午後を体現するような、波も無い静けさ。眼の塵も、心の塵も落としてくれる。東京から1時間半のところにいるとは本当に思えない、この充実感。
明日にはすっかり洗濯されて東京へ帰れそう。この静かな時間とお湯に体を投げ出すだけで、これほどまでに洗い流される感覚を味わえるとは。力はあるが刺激の無い優しいお湯だからこその効能なのかもしれません。
お湯と本とお酒だけの時間。この日最後の昼酒に選んだのは、地元湯沢町は白瀧酒造の、花見酒の上善如水純米吟醸。3月限定、開花を待ち遠しくさせるラベルに惹かれて購入。
新潟のお酒の中でもすっきりとし、きれいで飲みやすいイメージの上善如水。これまでも何度か飲んだことはありましたが、この花見酒は全く違った印象。
その味わいは、そのラベルそのものの印象。甘酸っぱさを感じさせるフルーティーで口当たりの良い飲みやすさ。香りも良く、本当に花のようなお酒。でも甘ったるさや重たさは無く、上善如水のすっきりとした後残りの無さがあります。
窓から漏れる雪の明るさで本を読む午後。旨い酒と共にのんびり味わっていると、いつしか辺りは暗くなり、電気を点けなければと立ち上がります。
こんな時間がいつまでも続けば良いのに。そう頭をよぎるも、これが特別な時間だから一層の味わいがあることを思い出します。でももう1泊ぐらいはしたい。
去る前からここでの時間が過ぎていくことに寂しさを覚えてしまう。それほどまでに愛おしい、貝掛での時間が流れてゆくのでした。
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