ホームでのいけない昼酒と少しばかりの感傷に酔いしれ、奥羽本線の普通列車に乗車します。これから向かうは弘前。僕の夏には欠かせない、8年連続で通う愛する街。
701系の長閑な列車に揺られること約45分、弘前駅に到着。改札へと向かう階段を上ると、何やら耳に心地よい音が聞こえてきます。やった!津軽三味線の生演奏だ!久々に味わう力強い音色に、僕の血が途端に滾るのを感じます。
心を揺さぶる強烈な三味の調べ。バチを打ち付けるような激しさがあったかと思えば、津軽の冬を思わせる悲しげな音色も。だめだ、やっぱり涙が出てしまいそうになる。津軽三味線を耳にすると、何故か自然と胸が苦しくなってしまうのです。
1年ぶりとなる弘前の街の空気を胸いっぱいに補給し、お城のそばに位置する『津軽藩ねぷた村』までのんびりお散歩。ここは7年前、僕に津軽という地を教えてくれた大切な場所。ここへ来ていなければ、こうして毎年ねぷたを見ることもなかったのかもしれない。
ねぷた村でお土産を買い、その足で弘前城へと向かうことに。その道中、早速目にする今宵の滾りの気配。出陣場所へと向かうねぷたがお堀端をゆっくりと進む姿に、胸が自ずと高鳴ります。
夏の緑旺盛な桜の並ぶお堀を進み、北側に位置する亀甲門へ。初めて弘前城を訪れた時は、まさかこうして毎年この街へ通うなんて思ってもみなかった。何か不思議な縁のようなものを感じつつ、城内へと進みます。
勢いよく茂る木々の葉の隙間から顔をみせる丑寅櫓。築後400年以上も風雪に耐え、今もなおこうしてお城を守り続けるように建ち続けています。
夏の陽射しと蝉の声に焼かれつつ進むと、黒いシートに覆われた補修中の石垣の奥に聳える天守の姿が。4年前に曳屋されこの場所に動きましたが、あと2年程で元の位置に戻るそう。この姿を見るのも、あと2回となりそうです。
先ほどの亀甲門が築城後初期の正門であったようですが、その後長きに渡り正門の役割を果たしてきた追手門。こちらも400年以上津軽の厳しい自然に耐えてきたという歴史が、その渋い佇まいから滲み出るかのよう。
重厚な追手門より城外へと出ると、そこにも移動中のねぷたの姿が。今夜出陣するねぷたたちはこうしてお堀端に集まり、夜空を焦がすその瞬間を今か今かと待ちわびます。
今宵の開幕に向け色めき立つ街を歩き、これから2泊お世話になる『スマイルホテル弘前』へと到着。ここに泊まれるのは久しぶり。ねぷた運行ルートの目の前という最高の立地のため、タイミングが合わないとなかなか予約が取れないのです。
早速チェックインし、客室へ。今回はお城や岩木山側の上層階の部屋のため、窓からは開けた景色が楽しめます。
部屋に重たい荷物を下ろし、祭りの前の景気付けにと街へと繰り出します。今回はホテルのチラシに掲載されていた『ゐざかや團』にお邪魔してみることに。お通しは厚焼き玉子に肉巻き、生ハムの握りの3点。どれも美味しく、早くも当たりのお店の予感。
まず頼んだのは、弘前へとやってきたらやっぱり食べたいほや。今回は青森の郷土料理である水物を注文。新鮮なほやは全く臭みがなく、それでいて独特な主張を持つ風味が絶品。東北でしか味わえない鮮度命の一品に、地酒がぐいぐい進みます。
続いて注文したのは、これまた大好物のミズの炒め物。シャキッシャキの食感とちょっとしたぬめりが美味しいミズを、豚肉やしらたきと共に炒めた郷土の味。これ、本当に旨いんだよなぁ。地酒もさることながら、白いご飯が欲しくなる。津軽の素朴なご馳走に、箸が止まりません。
もっと飲んでいたい誘惑に駆られつつも、気付けばねぷたの運行開始まであと少し。ということで〆にと選んだのは、これまた絶対に食べたい嶽きみの天ぷら。今が旬のトウモロコシは、揚げられ一層甘くしゃっきりと。何故嶽のとうきびはこうも旨いのだろうか。毎度のことながら、甘さと風味の濃さに驚かされます。
考えてみれば、弘前ではいつもほやにミズ、嶽きみばかり食べている気がする。でもいいや。それを口にした瞬間から、僕の熱い夏が幕を開けるのだから。旨いつまみと地酒の競演に、これから僕を襲う熱気への期待がどんどんと膨らんでゆくのでした。
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