猿賀神社から歩くこと約5分、国指定名勝の庭園である『盛美園』に到着。この庭園の写真を偶然に見たことが、津軽尾上を訪れるきっかけとなりました。
中へと入ると、まず目に飛び込むのがこの優美な庭園。明治時代に9年間も掛けて造られたという庭園には、池や築山、立派に成長した植木の数々と、様々な表情をもつ風景がぎゅっと詰め込まれています。
その美しい庭園を愛でるために造られたのが、この独特な佇まいの盛美館。明治時代に建てられた和洋折衷の建築はこれまでもいくつか目にしましたが、こんなにはっきりくっきりと和洋が重なっている姿は初めて。
1階は渋さを漂わせる数寄屋造り、2階は明治の華やかさを感じさせる優美な洋館。表情の全く違う2つの様式が、違和感なく上下二層で融合し共存している。なんとも不思議な佇まいに、江戸から明治への時代の変化が宿るかのよう。
今年で築111年を迎える盛美館。1階にぐるりと廻らされた縁側には経年により生まれた深い味わいが漂い、やはりここが日本庭園を眺めるために設けられた建物だということを思い出させてくれます。
日差しを遮る軒下の涼しさに誘われ、縁側に腰掛け庭園を眺めることに。西日が作る陰影に、夏の力が深みを与える豊かな緑。庭を渡り縁側へと届く風に吹かれれば、いつまでもこうしてぼんやりしていたいと思えてしまう。
縁側の傍に置かれる、繊細な装飾が施された水タンク。蓋には耳に躍動感を感じさせる唐獅子を頂き、龍の口から水が出てくるという工夫を凝らしたつくり。和洋折衷の建物に、また新たな彩りを添えるよう。
縁側で風の清涼を味わい、木々と水に彩られた庭園へと進みます。その途中、振り返ってみるとまた違った表情を魅せる盛美館。和洋が共存する唯一無二の佇まいは、角度を変えるごとに新たな顔を見せてくれます。
大きな池が中央に配置され、周囲に高低差のある築山が廻らされる盛美園。歩みを進めてゆくと角度と共に高さも変わり、庭園という限られた空間とは思えない景色の移り変わりを楽しめます。
池の反対側へと回れば、水面に優美な姿を映す盛美館が。この建物も、庭園を構成する美観のひとつ。全てが計算しつくされたお庭の美しさに、古くから日本人が育ててきた美意識と創意工夫が感じ取れるよう。
美しい庭園をぐるりと一周し、盛美館の中へと入ってみることに。2階部分は洋館ですが、玄関は日本家屋の趣。この独特な組み合わせは、本当に見ていて飽きません。
玄関で靴を脱ぎ中へと進むと、客人を出迎える立派な衝立が。青森名産のひばで作られた組木には、桂の埋もれ木で形作られた青森県。食に自然、文化に技。この県は本当に豊かさに包まれている。訪れるごとに、そうしみじみ思ってしまうのです。
日本家屋らしい、落ち着いた光量の室内から眺める日本庭園。陰と陽、内と外の絶妙な対比。現代のガラス張り建築では決して味わえない、古くから受け継がれた日本の美意識を感じさせるよう。
田舎館から始まり、黒石、尾上と味わった弘南鉄道の沿線小旅行。八度目となった津軽の夏ですが、まだまだ知らない魅力がたくさん。訪れるごとに、新たな顔を見せてくれる。だからこそ、こうして毎年来てしまう。改めて津軽の懐の深さに触れ、旅の途中でありながら来年の再訪を強く誓ってしまうのでした。
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