部屋へと滲む薄明かりに起こされ窓の外を見てみれば、昨晩の星空とは打って変わって雪の朝。舞い散る雪に霞む水墨画のような光景に、冬の情緒を噛みしめます。
凛とした空気の中朝の雪見露天に浸り、芯からほぐれたところで朝食の時間に。焼魚や小松菜の胡麻和え、ホクホクの温野菜に郷土の味であるいかにんじんと、体にも心にも優しいおいしい品々。今朝の小鍋はきのこ鍋で、穏やかなだしの温かみが朝の体に沁みてゆきます。
ご飯を2杯もおかわりし、満腹を何とか落ち着けたところで最後の一浴へ。今シーズン、最後になるであろう雪見風呂。暑い季節には夏の陽射しと戯れ、寒い季節には雪に埋もれていたい。そんな僕を包み込んでくれるかのような白濁の湯に抱かれ、この冬最後の夢心地に身を委ねます。
部屋で帰り支度を始めていると、降っていた雪も弱まりいつしか晴れの気配が。手を止めベランダから様子を眺めれば、谷底に佇む古参の湯屋を陽射しが照らし、最後の輝きをこの眼に見せてくれているよう。
チェックアウトを終え、コーヒー片手にロビーの大きな窓から眺める雪景色。純白の銀世界を眼に灼きつけていると、とうとう送迎バスの出発時刻に。宿の皆さんに手を振られ、そして手を振り返し旅立ちます。
5年ぶり、2度目の訪問となった旅館玉子湯。前回も良かったけれど、今回も本当に良い時間を過ごさせてもらえました。あぁ、また来よう。そう思える宿には、こうしてまた来ることができている。福島からは普段見えないという宮城蔵王の白い輝きに、再訪の願いを託します。
今回の旅も、いい湯、いい宿、そしていい旅だった。そんな満たされた気持ちで送迎バスに揺られること30分、福島駅に到着。帰りの新幹線の時間まで、最後の福島を満喫します。
まずは駅近くで腹ごしらえ。何を食べようかと悩みましたが、改札口のすぐ近くに『餃子の照井東口店』を発見。飯坂温泉に本店のある有名なお店ですが、開店直前で並ばずに入れそうなので迷わずここに決定。
午前からいけないビール片手に待つことしばし、円盤餃子の半皿が到着。きちんと円盤の半分、半円形に盛られているのがひとり旅の観光客には嬉しいところ。
見るからに香ばしく焼かれたきつね色の餃子をひと口。まず驚くのは、その皮の食感。こんがり揚げ焼きにされた薄皮は、噛めば音が鳴るほどのパリッパリに。かなり薄いのに、皮の存在感が個性を放ちます。
野菜をふんだんに使った餡は、しっかりと甘味や旨味がありつつもエアリーな食感。これまで食べたことのないおいしさに、箸もビールも止まらなくなる。気づけば11個、あっという間に平らげてしまいました。
この後軽く山を登るつもりだったので半皿にしましたが、気持ちもお腹も1皿いきたい。飯坂で70年近く愛される餃子は、これまでに出会ったことのない軽やかな旨さだった。今度は新幹線の時間ギリギリまでここで晩酌だな。そんな妄想を抱き、餃子の余韻に浸るのでした。
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