一畑電車出雲大社前駅。開業以来80年以上も現役で活躍し続ける駅舎。曲線が組み合わされたシルエットと、大きなステンドグラスが印象的な、出雲大社の玄関口です。
中へと入れば、白亜のドーム型天井に、光り輝くステンドグラス。それらは今なおも美しさを保ち続け、人々に愛され大切にされてきた歴史を物語っているかのよう。所々に施された線の装飾も、丸い天井の良いアクセントとなっています。
後ろを振り返れば、ステンドグラスが落とす美しい光がストライプの洪水となって壁に張り付いていました。80年以上も前にこのデザイン。当時はさぞかし「ハイカラ」であったことでしょう。
その輝きは、未だ失われずこの駅を彩り続けています。一地方鉄道の駅とは思えない、荘厳な雰囲気。一瞬教会にでもいるかと錯覚を起こしてしまいそう。
それでもやはり、現役の駅舎。地方鉄道という響きに相応しい、レトロな味のある発車標が改札上に掲げられています。
こちらも懐かしい、「ラッチ」の改札口から眺めるホーム。駅も車両もコンパクトですが、だからこそ「ばたでん」の魅力がぎっしり詰まっているかのよう。
改札で周遊きっぷを見せ、ホームへ。改札からホームへのアプローチは渋い雰囲気に包まれ、ターミナルとしての威厳を感じさせます。出雲大社への参拝客を迎え続けてきた歴史が滲み出ています。
『一畑電車』は、電鉄出雲市から松江しんじ湖温泉までが本線系統のため、出雲大社前から松江方面への直行便はわずか。大半が川跡駅乗換となります。
その川跡まで乗車するのが、この元南海ズームカー。小さい頃私鉄の本に出ていた、僕の中での南海電車の顔。塗装は変更されていますが、登場から50年以上も経った今でも、現役で頑張り続けています。
今となっては珍しくなってしまった、スプリングの効いたかまぼこ型のシートにゆったりと腰を掛けると、ゴトンと衝動の後、重厚な音を響かせ電車は動き始めます。
車窓には出雲の長閑な風景。網棚下にも電灯があるという、関西私鉄らしい贅沢な造りの車内から眺めるその風景は、また格別。
振り返れば鮮やかな青空に白い雲。雲いずる国らしく、ここでもあの昔話雲がぷかぷかと浮いています。
川跡までの短い旅を終え、松江しんじ湖温泉行に乗り換え。こちらは元京王電鉄の車両。僕の小さい頃にはすでに本線では見なくなっていましたが、何度か乗ったことのある想い出の車両。真夏の暑い日に、スタンプラリーで京王を回った記憶が甦ります。
この元京王電車はクロスシートに改造され、車内はゆったりとした雰囲気に。それでも大型のファンデリアが昔の京王の雰囲気を漂わせています。
2人掛けのゆったりしたシートに腰を降ろせば、適度な角度とクッションが快適な座り心地。でも、なんだか初めてな気がしない。体に染み付いたというか、しっくりくるというか・・・。
不思議に思い帰ってから調べてみると、なんと昔の小田急ロマンスカーのものだそう。その車両は、僕が好きで好きでたまらない、引退まで追いかけ続けてきた車両。後にも先にもこれ以上好きになる車両は出てくることは無いとまで断言できる、子供の頃から本当に好きな車両。
今は無き恋人とも言える車両の遺品にこんな遠方で再会するなんて・・・。運命のようなものを感じてしまいました。
掛け心地の良い座席に揺られていると、見覚えのあるオレンジ色の車両が車庫に寝ているのを発見。一畑電車の顔でもあり、映画で使われたことでも有名なデハニ50形です。
現存する中で日本最古級のこの車両からは、窓越しでもその渋さが伝わってきます。見られると思っていなかっただけに嬉しさもひとしお。
のんびり車窓を楽しんでいると、宍道湖が姿を現しました。汽水湖らしい色合いを見せる、穏やかな湖面。この養分豊富な湖で、しじみやうなぎなどの名物七珍が育まれるのです。
電車はこの先一畑口でスイッチバック。宍道湖の見える一人掛けの席へと移動します。ここからはずっと宍道湖沿いを走ります。
雲のレースをすり抜け、束となって降り注ぐ陽の光。宍道湖の湖面は、その一部分だけが特別な場所であるかのように強い輝きを放ちます。自然の作り出す偶然の光景。その神秘的な美しさに、ただただ見とれることしかできません。
小さな波を立てる湖面。光はそのさざなみに反射され、まるで砂金をこぼしたかのよう。
小さな電車にのんびりガタゴト揺られながら眺める穏やかな車窓。そんな贅沢な午後のひとときは、胸の奥まできらめく光で満たしてくれました。
地方鉄道ならではの、スローな小旅行。そんな時間を満喫し、松江に到着。宿へと向かう前に、松江の街をぶらつきます。
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