サンライズというゆりかごに揺られて落ちた深い睡眠。翌朝夜明け前にふと目が覚め、車窓に目をやると思わず息を飲んでしまうような光景が。
限りなく深い青に支配されていた夜空が、これから昇ろうとする朝日の淡いバーミリオンによって溶かされてゆく。そのグラデーションの中に、低い山並みが影絵となってその緩やかな稜線を浮かび上がらせる。
車窓という額に納められた一枚の絵画。そんな表現がぴったりな、幻想的な朝の光景。
空はだんだんと白み、パステルカラーのグラデーションを窓一杯に広げます。朱色や緋色、朱鷺色の陽の気配が、夜から朝へと景色を塗り替えてゆきます。
その移り変わりに、眠いのも忘れ思わず見入ってしまいます。こんな美しい車窓を楽しめるのも、時間と共に大地を駆けてゆく寝台列車の醍醐味。
列車は岡山、倉敷と過ぎ、陰陽を結ぶ伯備線へと入ります。カーブがグッと増え、車輪の刻むリズムもどっしりとしたものに変化。景色もぐっとのんびりしたものへと変わります。
勾配をぐんぐん登り、車窓にはだんだんと白い景色が垣間見えるようになります。
進むごとにその白さは増していき、これから向かう山陰への期待が弥が上にも高まります。針葉樹の上に積もった、粉砂糖のような雪がとてもきれい。
白の比率は更に増し、一面の銀世界となります。やはり冬の車窓には白銀が合う。この時期の列車旅を代表する光景です。
列車は山陰へと入り、川の流れる方向も変わります。白一色に包まれた山間の集落と山々。その奥には陽の光を受けて幻想的に光る銀の山が控えます。
沿岸部を目指して坂を駆け下り、雪がだんだんと消えてきました。もうすぐ米子。サンライズでの旅を反芻するかのように、ベッドでの最後のごろ寝を楽しみます。
窓を見上げれば冬の淡く優しい青空。延々と着席し続ける昼行列車では決して味わうことのできない、寝台列車の極上なひととき。早起きして暁を愛でた分、寝台でうとうととまどろむこの瞬間が一層味わい深いものとなります。
洗面に行った相方が戻ってきて、廊下の窓を見てごらんというので飛び出してみると、目の前に広がる宍道湖のパノラマが。個室の窓は反対側なので、頃合を見て廊下へ出ないと見られない景色。タイミングがバッチリ合い、偶然に見ることができました。
東京駅を出発して約12時間。列車は定刻通りに終着駅、出雲市に到着。
初めて乗った東京口の寝台列車。栄光の九州ブルトレにはついに乗ることはできませんでしたが、サンライズ号が、僕の夢をひとつ叶えてくれました。
山陰へは新幹線と特急を乗り継いでも中々大変な道中。そこを乗り換えなしに寝てる間に連れて行ってくれる。まさに、寝台列車の走る必要性のある場所。
そんな山陰路を駆け抜けるサンライズ号に兼ね備えられた快適な車内設備と電車の持つ乗り心地の良さ。消えゆく夜行列車の中で頑張る現役の寝台特急の面々。その中でも特別な列車という要素の強いカシオペアを除き、JRとして作られた唯一の新型寝台特急。
サンライズは未だ新車の輝きを持って東京と山陰、四国を結び続けています。夜明けを思わせる真紅をまとったボディーを煌めかせ、これからもずっと走り続けてもらいたい。寝台列車の一ファンとして、強く願わざるを得ません。
いい旅をありがとう、サンライズ。こうして、僕の初山陰旅行の幕は開きました。
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