初の山陰グルメに選んだのは、出雲名物の出雲そば。何軒かお店がある中で、今回お邪魔したのは『荒木屋』。江戸時代創業という老舗のおそば屋さんです。
初の山陰とうことで、欠かせないのが初山陰地酒。おそば屋さんのご近所にある古川酒造の純米升酒を注文。一口含めば、口と鼻に甘酸っぱさが広がり、今まで飲んだことの無いタイプのお酒。これは美味しい!!
美味しいお酒をちびりちびりと愉しんでいると、お待ち兼ねのそばが到着。今回は割子四代そばを注文。
出雲は割子そばが有名で、その発祥は出雲大社へ参拝に来たお客さんにお弁当として持ち帰ることができるようにこのスタイルになったそう。
上から順に、なめこおろし、有精卵、とろろ、薬味なしのそばが重なっており、一段ずつだしを適量掛けて頂きます。そして残っただしは次の段へ。
それを繰り返すことで、最後の薬味なしのおそばには全部の薬味の美味しさが詰まったおだしが注がれるという、なんともいいシステム。
そばは骨太な田舎そばを勝手にイメージしていましたが、思ったよりも細め。啜ってみるとプリプリなもち肌なそばが心地良く口へと滑りこんできます。そばの風味が丁度良い濃さのだしの旨さと共に広がり、なんとも幸せ。
薬味もそれぞれ美味しく、特に驚いたのは有精卵の濃厚さ。黄身がとても美味しいこともさることながら、白身もしっかり旨味のある卵。生卵の白身に美味しさを感じたのは初めてでした。
そんな美味しい割子そば。その美味しさに一段ずつ写真を撮ることもすっかり忘れ、4段分を一気にたいらげてしまいました。もちろん、地元のお酒との共演を愉しみながら。
そして〆は湯呑に入れて出されたそば湯。これの驚くほど美味しいこと。そば湯は濃い目のものが好きですが、濃い目=ドロッとしたもの、というそば湯ばかり飲んできました。
ですがここのは違う。まるでポタージュかのような優しい濃さで、そばの甘さがふわっと香る。そのままでも美味しいですが、だしをほんの少し加えると、これだけで立派な汁物とも思えるほど。
絶対水が違うんだ。だからおそばもそば湯もお酒も違うんだ。全てを食べ終わり、思わず二人で顔を見合わせて納得してしまいました。
おそば屋さんの前に延びる長閑な道を、大通り目指してのんびり歩きます。青い空、白い雲、独特な家並み、そして美味しいそばと酒の余韻に包まれながら歩くこの道。
半日前にはまだ東京に居たことがまるで嘘のよう。寝台列車での旅は、夜明けと共に日常を夜の闇に置き去ってしまう。そんな不思議な魔力があります。
穏やかな家並みの続く道を抜け、バス通りに復活。ここからは松江までの足である一畑電車の駅を目指します。振り返れば、出雲大社の鳥居。ありがとうございました。また来ます。その思いを込めて一礼しました。
電車は1時間に1本程度の間隔。次の電車まではまだ時間があったので、駅周辺をのんびり散歩することに。
駅を過ぎて少し進むと、バスからも見えたとても大きな鳥居が。古きよき門前町に聳える鉄筋コンクリート製の白亜のその姿は、一瞬あれ?と違和感を覚えてしまいましたが、よくよく説明を見てみると、なんと大正時代に建てられたものだそう。
高さも日本一とのことで、昭和に入って鉄筋コンクリートが一般的になるよりもずっと前にこれほど立派なものが建てられたということに驚き。このハイカラな鳥居は、門前町と共にずっと出雲大社を見守り続けてきたのですね。
鳥居の脇を流れる川を上流方向へ。輝く太陽に照らされたまっ白な鳥居は、意外にもこの街に溶け込んでいました。
出雲に来てずっと目が離せないのが、空に浮かぶ白い雲。小さい頃日本昔話で見た、あの渦巻きのぷかぷか雲を連想させる、これぞ雲!という雲が無数に並んでいます。
この形は、意外と東京では見ないもの。まさに、雲いずる国。この土地の力を、雲を通して感じたような気がする。そんな昼下がりでした。
川沿いの踏切からは左右に鉄路が延びています。左を向けば、渋い駅構内に佇む一畑電車。少し前には映画の舞台にもなり、地方の中小私鉄ではだいぶ元気なほうではないでしょうか。この渋さにも、不思議と寂れた感じは全く受けません。
右を振り返れば、延々と延びる真っ直ぐな鉄路。鉄錆色の中に鈍い輝きを放つ軌条には、鉄路の生命力さえ感じさせ、その力強さと魅力に吸い込まれてしまいそう。
都会のシステム化された鉄道も好きですが、地方で人々の生活の足として頑張り続けている私鉄からは、言い表せぬほどの使命感を感じます。
これから乗る一畑電車に思いを巡らせ、一路駅へと歩みを進めるのでした。
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