湯けむりへの轍 ~乗合自動車、みちのくへ。3日目~ | 旅は未知連れ酔わな酒

湯けむりへの轍 ~乗合自動車、みちのくへ。3日目~

初秋の大沢温泉自炊部湯治屋で迎える朝 旅の宿

2年振りに迎える、大沢温泉の朝。障子を開けて鄙びた色彩を目にすれば、もうすでに秋が深まりつつあることを実感します。

僕の大沢温泉での朝食の定番は、納豆ごはん。パックご飯を持ち込み、花巻納豆と生卵は宿の売店で購入します。

ちなみに、花巻納豆にたれは付いていないので、小さいしょう油を持参すると便利。また、調理場には無料の電子レンジがあるので、パックご飯はそこでチンします。

大沢温泉自炊部湯治屋での朝 廊下を歩く牛乳売りから買ったヨーグルト
ふっくらとしつつ歯ごたえを感じる花巻納豆。納豆らしい納豆の美味しさを、秋景色をぼんやり眺めつつ噛み締める朝。そんな素朴かつ贅沢な朝食を終えると、恒例のあの声が。

遠くから、カチャカチャという瓶の音とともに近付く、何とも言えぬ声。「おはよぅございま~す。朝の牛乳~、いかがでしょうかぁ~・・・。」

この音風景こそが、僕にとっての大沢温泉の朝。初めて泊まった際、牛乳売りの人が廊下を歩いて回る光景を目にし、オーバーではなく衝撃が走りました。

重たい商品を携えながらも、廊下を静かに歩む姿。独特な節回しの心地よい掛け声。言わば湯治場の歴史や文化がそのまま可視化された、そんな印象が脳に植え付けられたのです。

そして今回、ようやく牛乳売りの方から買うことに成功。近付く声と音でタイミングを計り、障子を開けてスミマセン!こうして買ったヨーグルトの味は、いつもと同じ訳がありません。

湯けむりに包まれる秋の大沢の湯
あぁ、こんな朝を永遠に迎えることができたなら・・・。そんな叶わぬ思いが、毎回毎回自ずと湧いてくる。それが大沢温泉の持つ魅力。

納豆にヨーグルトという健康的な朝の余韻を残しつつ、誰もいない大沢の湯へ。チェックアウト後のこの時間は、日帰り客もまだ少ない、連泊した者のみに許される穏やかな時間。

大沢の湯の湯上がりに楽しむ午前のビール
誰にも気兼ねせず、時間も気にせず。そんな休日に相応しい湯浴みを存分に楽しみ、これまた休みの特権である午前のビールを。

いつも大沢温泉に泊まるときは4泊以上。でも今回は2泊3日、僕としては短期の滞在。明日はもうこの愉しさを味わえないかと思うと、旅の前半にもかかわらずちょっとした寂しさが襲います。

大沢温泉自炊部湯治屋食堂やはぎ野菜ラーメン
ラガーのほろ苦さと共にそんな贅沢な悩みを飲み干し、お腹が空いたところで食堂やはぎへ。今回は初めての野菜ラーメンを注文してみることに。

ガラベースに野菜や豚肉の甘味が染み出たスープは、その見た目通りの穏やかな味わい。それを細めの縮れ麺が絡め取り、体の中から優しく温めてくれるようなほっとする美味しさ。

秋の昼下がり曲り橋から眺める大沢温泉菊水館の茅葺屋根
素朴なラーメンに体も心もほっこりしたところで、部屋へと戻ります。テレビも点けず、酒も飲まず。ただただ愉しむ、「何もしない」をする時間。

時間を持て余すという、普段は決して味わえない心地よさ。そんな贅沢な怠惰に身を委ねつつ、気が向いたところでお風呂へと向かいます。

その道中、大沢温泉の象徴のひとつである曲り橋から望む菊水館。紅葉に向け緑を弱めつつある木々の色味が、茅葺屋根の味わいを一層深いものとします。

曲り橋から望む大沢温泉自炊部湯治屋の歴史ある建物
ふと振り返れば、川沿いに連なる渋い建物。豊沢川の刻んだ谷底に並ぶ自炊部は、ここだけが時の忘れ物であるかのよう。

大沢温泉自炊部湯治屋菊の司平井六右衛門で昼酒を
湯に浸かって、ボーっとして。そんな時間を過ごしていると、気付けばもう15時過ぎ。少々早いかなとは思いましたが、フライングして今宵の供を開けることに。

見慣れないラベルに惹かれ購入した、平井六右衛門純米酒。よくよく見れば、僕の好きな菊の司が造るお酒でした。

嫌な日本酒臭さの無いすっきりとした味ながらも、酸味や甘味を感じるような美味しいお酒。つまみと一緒でも美味しいでしょうが、お酒だけですいすい飲めてしまいます。

大沢温泉で迎える最後の夕暮れ
茶碗酒片手にドラマの再放送をぼんやりと眺め、肌寒さを感じたらすぐ温泉へ。時間が有り余るように思えるかもしれませんが、気の向くままぐうたらに過ごせば、あっという間に夕暮れ時に。

大沢温泉自炊部湯治屋食堂やはぎごぼうカリカリ揚げと野菜サラダ
そして今夜も、素泊まりの心強い味方である食堂やはぎへと向かいます。早速浜千鳥を注文し、カクテキをつまみにのんびり、ちびちび。

時刻はまだ18時過ぎ。普段ならまだ夕飯の支度にも取り掛かっていない時間。そんな早くから晩酌を始められるのも、旅の醍醐味。

夕方のニュースを見つつお酒を飲んでいると、注文したおつまみ2品が到着。以前に食べて美味しかったごぼうカリカリ揚げと、なぜか無性に食べたくなった野菜サラダ。

野菜サラダには白いフレンチドレッシングが掛けられ、久々に味わうシンプルな美味しさ。瑞々しさを感じさせる生野菜が、旅先ではありがたい。

ごぼうのカリカリ揚げは、その太さからは想像できない歯切れの良さ。嫌な繊維質は全く感じさせず、それでいてホクホクとした土物の香りと旨味が広がります。

大沢温泉自炊部湯治屋食堂やはぎ十割そば更科海老天そば
肉も魚も好きだけれど、やっぱり野菜が大好き。美味しい野菜をつまみに釜石の地酒で程よく酔ったところで、大沢温泉最後の〆を。

昨日は田舎そばを食べたので、今夜は更科の海老天そばを注文。白く細いそばは喉越しがよく、衣の油分でコクを増したつゆとの相性もピッタリ。

4度目にして、初めて体験したやはぎ湯治。自炊ならではの楽しさはもちろんありますが、安くて旨い、そしてこの手軽さを味わってしまうとクセになりそう。大沢温泉にやってくる理由が、またひとつ増えてしまいました。

あとはもう、地酒片手に本能の赴くままに過ごすだけ。テレビを点け、面白くなければ消してひたすらぼんやりするのみ。

ひとり旅を始めた頃は、普段通りにテレビを見てその合間に温泉を楽しんでいました。でもそれでは日常の延長線上だと思い、テレビを止めて読書に切り替えました。

それまでの本嫌いはどこへやら、旅先で静かに読む本のおもしろさに気付いてしまった僕。すると今度は、本の合間に温泉へという逆転現象が。

温泉に浸かりたいがために旅へと出ているのに、この状態では本末転倒。普段しない読書という楽しみは捨てがたかったものの、宿で予定となりうるものは敢えて手放してみることに。

そして今回が3度目のチャレンジ。本に縛られず、時間に縛られず。テレビを見たければ見ればいいし、本を読みたくなれば電子書籍で探せばいい。そう割り切ると、これまでよりも自由な時間が流れ始めました。

今回は、たった2泊の短い滞在。こんなことを書くと顰蹙を買いそうですが、それは違う。万障を排してでも長く居たくなってしまう、それが大沢温泉。

だから今回は、正直物足りなく感じるだろうと覚悟の上で訪れました。でもそれは全くの見当違い。何泊でも居たい宿は、1泊でも2泊でも満足させてくれる。そのことを今夜、身をもって痛感しました。

これまで、長期休みが取れたときだけの贅沢としてきた大沢温泉。今回新しい滞在の仕方に触れ、より一層深みにはまりゆくのを強く実感するのでした。

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湯けむりへの轍 ~乗合自動車、みちのくへ。~
夜に幻想的に光る大沢の湯
2017.10 岩手/宮城
旅行記へ
1日目(東京⇒盛岡)
●2日目(盛岡⇒鉛⇒大沢温泉)
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3日目(大沢温泉滞在)
●4日目(大沢温泉⇒マルカン⇒鳴子御殿湯)
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6日目(鳴子⇒仙台⇒東京)

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