しみじみ浸る、岩手の秋。~想い焦がれて東北へ 2日目 ①~ | 旅は未知連れ酔わな酒

しみじみ浸る、岩手の秋。~想い焦がれて東北へ 2日目 ①~

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋岩手で迎える静かな朝 旅の宿

11か月ぶりに迎える、旅先での朝。障子から漏れる弱い光に起こされ窓を開ければ、部屋へと降り立つ凛とした冷気。漂う朝靄が露となり、渋い湯宿の屋根をしっとりと濡らしています。

別れ際に大沢の湯をもう一度※この写真は以前の滞在時に撮影したものです
さすがは秋の岩手、朝は冷える。布団の温もりが肌から去り、寒さを感じたところで朝風呂へ。川を渡る冷涼な空気の中、全身を包む大沢の湯の温もり。山肌になびく朝靄と立ち上る湯けむりの交じり合う様を、いつまでもいつまでも飽くることなく眺めます。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋朝靄の漂う渓流沿いの湯宿
白く煙る幻想的な湯浴みを愉しみ、一旦自室へ。湯上りは、ぼんやり布団でごろつくに限る。いつもなら支度で慌ただしい朝を、こんな贅沢な無駄で埋めてしまうなんて。湯と布団の温もりに揺蕩い、微睡みの甘さを嚙みしめます。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋やはぎ1泊目朝食
うつらうつらと夢とこちらの世界を往復し、お腹もすいたところで朝食の時間に。やはぎへと向かうと、おいしそうなお膳が用意されています。鯖におひたし、きんぴらに玉子焼き。これぞ王道という和朝食が、朝風呂ですっからかんになったお腹と心を満たします。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋雨音を聞きながらぼんやり寝ころぶ
おいしい朝食を味わい、自室へと戻り再び布団へ。朝の空気を満たしていた朝靄はいつしか雨となり、不規則なリズムで屋根をたたきます。ただすることもなく、寝転がって雨音を聴く。こんな優美な怠惰が許されるのも、連泊ならではの醍醐味。

紅葉に彩られる大沢温泉山水閣豊沢の湯※この写真は以前の滞在時に撮影したものです
静かな部屋に響く雨音に誘われるかのように、気づけば落ちる浅い眠り。ふと目覚め、心の赴くまま豊沢の湯へ。多くの人々が旅立ち、宿に訪れる静かな時間。その穏やかな空気感の中で味わう湯浴みは、文字通り格別の一言。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋味わい深い売店前の廊下
とろみのある湯にすっかり火照ったところで、自室へと戻ります。その道中、味わい深い売店で味わい深いあいつを購入。手に感じる冷たさに心躍らせ、軽い足取りで部屋を目指します。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋電気も点けずに味わう昼前のビール
そしてこいつをプシュッと。その直後、喉に感じる冷たい刺激。湯上りに味わう昼前のビールは、その苦さとは相反する甘美さに満ち溢れています。

あぁ、幸せだ。好きな土地、好きな宿で、好きな湯を浴び好きな酒を飲む。久々に感じるこの充足感に、やはり旅は自分にとって必要不可欠なのだと今更ながら思い知らされる。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋軒下から望む茅葺の菊水舘
昼酒という旅先だからこそ味わえる体たらくに酔いしれ、ちょっとばかり昼寝をしたところで再び大沢の湯へ。空は相変わらずの雨模様。すっきりとした秋晴れも捨てがたいが、渓流沿いの湯宿を濡らすこのしっとりとした風情もまた味わい深い。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋食事処やはぎカレーうどん
連泊ならではのゆとりに身を委ねていると、気づけばあっという間にお昼の時間。楽しい時間というものは、何故こうも早く過ぎてしまうのだろう。毎度浮かぶ疑問に首を傾げつつ、食事処やはぎへと向かいます。

ひっつみもいいし、カレーも捨てがたい。中華そばも旨かったよなぁ。なんて嬉しい悩みの中選んだのは、カレーうどん。甘さの中にスパイシーさを感じるカレーに風味を添える、和のだしの香り。細身のうどんがそれによく絡み、湯上りのお腹にするすると心地よく吸い込まれてゆきます。

大沢温泉自炊部薬師の湯の渋い雰囲気※この写真は以前の滞在時に撮影したものです
畳の感触を味わいつつごろごろとお腹を落ち着けたところで、若葉荘にある薬師の湯へ。誰もいない、湯けむり満ちる古き良き浴場。肌に感じる湯のとろみと、緻密に張られたタイルの感触。いつもは露天風呂派の僕だけれど、内湯には内湯の良さがあるということを教えてくれる、大好きな湯。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋絵画の様に切り取られた菊水舘と紅葉
連泊のこの穏やかさを、一度知ってしまうともう戻れない。静けさに包まれた湯浴みの余韻を肌に残しつつ歩く、何度も通ったこの廊下。ふと窓へと目をやれば、心を射抜くようなこの光景。窓に切り取られた雨に濡れる大沢温泉は、まさに一幅の絵画のような美しさ。

10月下旬秋の大沢温泉湯治屋いつしか雨は上がり木々の隙間から漏れる陽射し
何度訪れても、同じ空気で迎えてくれる。それなのに、何度訪れても新たな顔を魅せてくれる。11か月ぶりの旅、そして、1年8ヶ月ぶりとなる東北の地。恋焦がれたその瞬間の舞台として、やっぱりここを選んでよかった。そんなことをぼんやりと想っていると、いつしか雨は上がり木々の隙間からは陽射しが。

東京に閉じこもる日々の中で擦り減っていく何かが、いま確実に満たされてゆく。自分の中に活き活きとした感覚が久々に灯るのを見つけ、旅があってこそ生きてゆけるのだと強く強く実感するのでした。

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