万緑の盛岡城跡に別れを告げ、夏の暑さを愉しみつつ盛岡の街歩きを続けます。岩手銀行旧本店赤レンガ館の色合いと、眩さを放つ夏空の対比。重厚さと鮮やかさの競演に、思わず目を細めます。
これまで中津川の上流方向へは歩いたことがありましたが、下流方面へは向かったことがなかったので気の向くまま川沿いを歩いてゆくことに。
しばらく進むと、行く手には立派な土蔵が。江戸時代後期に建てられたとみられるこの彦御蔵は、盛岡城として唯一残る建造物なのだそう。大きく広がる大屋根と、白亜に輝く漆喰の美しさが印象的。
その先には、連なる擬宝珠が城下町らしさを漂わせる下ノ橋。一見普通の橋に見えますが、実は大正元年生まれなのだそう。足元を支える石積みの橋脚が、その歴史の古さを感じさせます。
この擬宝珠は、赤レンガ館横に架かる中ノ橋が改築された際にこちらへ移されたものだそう。上ノ橋の擬宝珠とともに、何度も洪水により流されつつも奇跡的に残され続けてきた藩政時代の貴重な生き証人。
下ノ橋のたもとには、賢治清水と名付けられた湧水が。このすぐ近くに宮沢賢治が使っていたという井戸が残されており、その水脈から湧いているものだそう。一口飲んでみると、なんともまろやかでおいしい水。思わず手持ちのペットボトルのお茶を飲み干し、満タンに詰めて持って帰りました。
隣接する駐車場の一画に残される、石積みの井戸。盛岡に下宿中の宮沢賢治が、この共同の井戸を使っていたのだそう。このほかにも湧水があちらこちらに点在し、盛岡が水に恵まれた街であることを実感します。
そのまま中津川沿いをのんびり散歩。少しばかり西へと傾き始めた陽射しを浴び、夏空を仰ぎながら歩く河川敷。あぁ、夏休みだなぁ。あと数時間で終わる僕の夏と重なるように、中津川もこのすぐ先で北上川へと合流します。
そのまま大通りを進み、不来方橋へ。橋上からは、二度泣き橋の異名を持つ開運橋と、うっすらと姿を見せる岩手山。夏空に染まる盛岡。これまで知らなかったまた新たな表情に出逢え、一層この街が好きになる。
数時間ながら夏の盛岡を満喫し、この旅最後の東北の味を楽しむことに。何を食べようかと迷いましたが、前回お肉のおいしさを知ってしまった『盛楼閣』にお邪魔することに。
まずは焼肉といえばのカルビから。といっても、最近はもっぱらハラミ派の僕。この歳になってくると、カルビの脂が強く感じてしまうのです。
いいお肉で結構脂ものっていそうだな。そう思いつつ、焼き立てをパクリ。うわ、旨!脂の甘味はありつつも、しつこさは皆無。そして何より、味付けが抜群。お肉を引き立てる揉みだれと、それを邪魔しないあっさり目のつけだれ。やっぱり盛楼閣、間違いない。
続いては、大好物のレバーと上ミノを。ぷっくりとしたレバーはホクっとした食感で、しっかりと詰まる旨味がビールを一層進めます。肉厚の上ミノは嫌な硬さはなく、さっくりとした歯触りとじんわり広がる味わいが美味。
おいしいお肉をもっと色々試したいところですが、我慢我慢。盛楼閣へと来たら何が何でも外せない盛岡冷麺で〆ることに。今回も辛味別で頼みました。
まずは澄んだスープをひと口。すると口中に広がる上品な牛のだし。変な乳臭さのない、それでいてしっかりとベースを支える牛の旨味に思わず頷きます。
続いて別添えのキムチと汁を少々。すると一気に味わいは華やかに。辛味と適度な酸味が加わり、これこそ盛楼閣の冷麺!と叫びたくなるような最強の旨さに変化。
太目の麺は、しっかりとした弾力がありつつも歯切れの良さもある丁度良い塩梅。もちもちプリプリとした麺を頬張りスープを含めば、口中が幸せに満たされます。
おいしいお肉と間違いのない旨さの冷麺で、お腹も心も大満足。やっぱり盛岡に寄って正解だった。満たされた気持ちで、この旅の出口となる盛岡駅へと吸い込まれます。
ホームで待つことしばし、僕を東京へと連れて帰るこまち号が入線。秋田からやってきたこまち号は、ここ盛岡ではやぶさ号と連結。普段は見ることのできない連結器カバーを開けた状態を間近に望み、思わず鉄ちゃんの血が騒いでしまう。
自席に座りほっとひと息ついたと思った刹那、こまち号は東京へと向け静かに出発。だんだんと速度を速めて去りゆく盛岡の街。夕暮れ時に輝き始める街並みに、ふと切なさがこみ上げる。
市街地を抜け、320km/hへと向け加速を続けるE6系。車窓に広がる豊かな田園も、暮れゆく空に段々と色を失ってゆく。あとはもう、大好きな酔仙片手にこの旅を想い出へと変えてゆくのみ。
いつもなら前に連結されたE5系はやぶさ号に乗りますが、今回はふと思い立ちE6系こまち号を予約。車内には随所に秋田を感じられる意匠が施され、今回は立ち寄ることのできなかった彼の地への想いを掻き立てるよう。
3年ぶりに弘前ねぷたが開催されると知り、居ても立っても居られず決めた今回の旅。いつもなら、時間を掛けて行程を練る夏の東北縦断の旅。でも今年は、年休を手配する暇も勿体ないと思えるほどに、僕の心はねぷたを欲していた。
八重山のあおさに染まった一昨年とは違い、完全に色を失ってしまった去年の夏。そして今年、3年ぶりにようやく両方が揃ってくれた。
僕にとって、八重山のあおと津軽の熱さが揃ってこその夏。3年ぶりに再会できた弘前を染める色彩の洪水に、今年は思う存分胸を焦がすことができた。
胸を染める八重山のあお、心に灯る津軽の滾る光の波。それらを大切に胸へと宿し、またもう少しだけ東京で頑張れる。
生まれ故郷で生きることを「頑張る」と感じてしまう僕にとって、このふたつは欠かすことのできない大切な燃料。その温もりを大切にしまい込み、来年にむけて生きる勇気へと変えてゆくのでした。
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