それにしても、今日は本当に長崎を大満喫した一日だった。7時台にホテルを出てから18時前まで、座っていたのは食事と路面電車に乗っているときだけ。さすがにへとへとになってきたので、そろそろ今宵の宴の場へと向かうことに。

出島から夕色に染まる新地中華街を抜け川を渡れば、隣の思案橋とともに長崎の一大繁華街を形成する銅座の街へ。事前に予約していた、『五人百姓』へとお邪魔します。

歩数計を見たら、見事25,000歩オーバー。そりゃさすがに疲れるよね。そんなこんなで、まずは冷たい黒ラベルで乾杯。最初はビールに合うおつまみをと、この2品からはじめることに。
ふるりとやさしい玉子に、だし感とぴりりとした辛味がふくよかさを演出する明太子玉子焼。やっぱり九州の明太の旨味は違うなと、おもわず金星のスピードが上がってしまう。
もう一杯ビールで行こうか。そうおかわりを注文し、つづいて揚げたての雲仙ハムカツを。これがもう、驚きの旨さ。下調べしていたときに、どこのお店でも推していた雲仙ハム。ひと口噛めば、深みのある肉々しさが押し寄せてくる。
ハムといいつつ、ボロニアソーセージに分類される雲仙ハム。見た目通り、なかにはあらびきの赤身と白身がぎっちり凝縮。そこから溢れくる豊潤な旨味はハムカツの域を超越し、逸品として完成されたメンチカツのようにすら感じられるほど。

雲仙ハムの破壊力に圧倒されていると、長崎へと来たら絶対に食べたいと思っていた名物ハトシが到着。
明治時代に清から伝わり、卓袱料理として親しまれてきたハトシ。蝦トーストを意味する中国語が名の由来となっており、アジアの国々でも似たような料理が多く食されているそう。
その名のとおり、えびのすり身をパンで包み揚げたもの。待望の出逢いに胸を躍らせつつ、熱々をひと口。その刹那、期待をはるかに超えてくる旨さに溺れてしまう。
薄い食パンで挟んだり巻いたりするお店が多いようですが、こちらではやわらかめのフランスパンを使用。そのため、軽やかな油感と豊かな香ばしさが印象的。
そしてなにより、すり身が旨い。えびの良い部分はしっかりと凝縮しながら、ありがちな臭みはなし。長崎へ来たことを実感させてくれる、ちょっとばかり甘めの味付けがまた絶妙。
そのままで、レモンをきゅっと絞って。さらにスイートチリソースと、味の三段活用であっという間にひと皿空っぽに。

想像以上のハトシの旨さに感動し、急いでビールを飲み干し地酒に切り替え。フルーティーさで迎えられ、その後日本酒のきりりとした表情が「かんっ!」と突いてくる。これが長崎の酒の特徴なんだな。そんなことを噛みしめつつ呑み進めていると、お待ちかねの刺身いろいろ盛が運ばれてきます。
もっちり旨い鯛やいか、旨味の詰まったたこに甘えび、アオヤギ。酢味噌で食べるきびなごも新鮮で、まぐろは舌の温度で溶けゆく至福の中とろ。脂と筋肉質のバランスがよい、長崎でヒラスとよばれる名物ヒラマサ。いわしや鯵ももちろん新鮮で、はじめての長崎の刺身にひと口ごとに圧倒されっぱなし。
そして驚いたのが、九州といえばの甘いしょうゆ。正直なことを言いましょう。13年前に九州を旅した際にチャレンジしつつも、そのときには良さがわからなかった甘醤油。でもやっぱり、郷に入っては郷に従え。卓上に置いてあった地元長崎のチョーコー醬油、超特選甘露さしみを使ってみることに。
これがもう、旨さぴちぴちの刺身と相性ばっちり。白身やたこいかは繊細な旨味をより盛り上げ、とろや青魚はその脂感を包み込み。えっ、待ってなにこれ!?この新鮮な味覚の体験は、こうして長崎まで来たからこそ出逢えたもの。

長崎ではくじらがよく食べられており、こちらのお店ではしゃぶしゃぶやさまざまな部位の盛り合わせが人気のよう。ですがお腹のスペースを勘案し、悩んだ末に赤身くじらのユッケを頼むことに。
見るからに、瑞々しい赤みをまとったくじらの身。薬味と黄味を絡ませ頬張れば、これまでのくじらでは経験したことのない旨さがこころを鷲掴みに。
その見た目のとおり、しっかりと凝縮された赤身の旨味。ですがクセや臭みは全くなく、するりとほどけてゆくくちどけのよさ。これまでどれだけおいしいといっても、どうしてもにわかに感じられた海に生きる哺乳類感。それがどこを探しても見当たらないのに、抜群に濃ゆい味わいだけが広がってゆく。

大人になって、はじめての長崎。こんなに豊かに酒が呑めるなんて。昨日降り立ってから、何を口にしても好みに合う。これはもっとはやくに、再訪するべきだったな。そんな大満足な宴の最後を飾るのは、すっかりこころを射抜かれてしまった雲仙ハム。こんがりと串やきにされれば、カツとはまた違った味わいに。

いやぁ、最高だった。長崎の味に酒にとすっかり酔わされ、上機嫌で歩く帰り道。思案橋の賑わいを近くに感じつつ、銅座から船大工へ。これはまた、再訪せねばならぬ街ができてしまった。すっかり長崎の魅力に心酔し、街の輝きも一層煌めいて眼に映る。

ホテルへと戻り、大浴場のひのき風呂で今日一日の疲れを解きほぐす。あとはもう、更けゆく長崎の夜に溶けゆくばかり。
そんな時間のお供には、波佐見町は今里酒造の六十餘洲純米酒山田錦。甘酸っぱさからの日本酒らしさが立ち昇る酒、それに合わせる長崎といえばのカステラ。甘さ控えめ、しっとりとした生地に込められたチョコのほろ苦さ。甘いもので酒が呑めてこそ、吞兵衛冥利に尽きると最近思えるようになってきた。
飲める歳になって、はじめて味わう長崎の幸。刺身もハムも名物料理も、そして甘いしょうゆの魅力にすら出逢えてしまった。
これだから、旅することをやめられない。現地で食や文化、空気感を実体験してこそ初めて知ることのできる、土地の魅力。そんな深みのある豊かさに触れ、この2日間であっという間にこの街の虜になってしまうのでした。



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