長崎からかもめに揺られることあっという間の24分、西九州新幹線の現時点での起点である武雄温泉に到着。多くの人は対面に停車していたリレーかもめへと乗り換えますが、僕らはここで下車。

バスツアーの途中で、お土産屋さんに立ち寄っただけだった佐賀県。そのため、僕のなかでは未踏認定していた県のひとつ。立ち寄りではあるものの、ようやくこうしてはじめて訪れることができた。

はじめてとなる佐賀の空気感に感慨を噛みしめつつ歩いてゆくと、街の背後には独特な形をした岩山が。肥前国風土記に、「郡の西に温泉の出る巌有り」と記されたという武雄温泉。きっと、あの山のことを指しているのだろう。

桜山の威容を見据えつつ山手へと進路を変えれば、住宅地だと思っていたところに突如はじまる武雄の温泉街。大小の旅館を眺めつつ進んでゆくと、竜宮城を思わせる楼門が。

武雄を観光温泉街として発展させるため、大正4年に建てられたという楼門。見上げれば、優美な曲線を描く折上格天井。築111年を経て、いまなお光る当時の宮大工の技。

荘厳さを放つ楼門の横には、ごぼごぼと音を立てて湧く第1源泉。その音に、これから入る湯への期待が自ずと高まってくる。

お湯を愉しむ前に、まずは正面に建つ優美な建築の見学を。楼門と同じく、大正4年に建てられたという武雄温泉新館。なんとも東洋的な情緒を漂わせる、見る者の目を奪う独特な佇まい。

楼門とこの新館を設計したのは、佐賀は唐津出身の辰野金吾氏。東京駅や日銀本店、岩手銀行本店本館と洋風建築のイメージがあったため、こんな和風の建物も設計していたとは驚き。ここに来なければ、きっと知らずにいただろうな。

公衆浴場として建てられたこの建物。昭和48年までは使われていたそうで、往時の雰囲気を色濃く残す浴場も。高い天井、レトロなタイル。浴槽には大理石が使われ、こんなところで湯に浸かったらと妄想が膨らんでしまう。

五銭湯とよばれるさきほどの大きな浴場のほか、十銭湯というお高めの浴室も。床には、高級品であるマジョリカタイルがびっしりと。当時のかけそば一杯分で、ちょっとした贅沢気分を味わったのだろう。

大正時代の美意識が、いたるところに込められた新館。洋の風を感じさせる浴場に、落ち着きのある和風の館内。使い込まれた木の風合いに、これが現役のときに来てみたかったと叶わぬ願いを描いてしまう。

2階へと上がると、広々とした廊下沿いに連なる大広間。年季の入った木の色味、外柱からにじむ朱の鮮烈さ。そんな目の覚めるような対比を生む、あたたかさに満ちた初夏の陽射し。

現役当時は、ここは休憩室として使われていたそう。畳に座り、足を投げ出し火照った体を落ち着かせる。こんな空間で過ごす湯上がりは、それは至福のものであったに違いない。

竜宮城をモチーフに、温泉リゾートとしての開発が計画された武雄温泉。壮大な構想の中で実現されたのは楼門と新館の2棟ですが、それが完成していたら一体どんな姿を魅せてくれていたのだろう。

大正時代の夢の跡に触れ、いよいよ武雄の湯との対面を。いくつか立ち寄り湯はありますが、現役の公衆浴場建築としては日本最古を誇る元湯に入ることに。
入浴料500円を支払い、いざなかへ。脱衣所から浴室へと足を踏み入れれば、むわっとした熱気とともに迎えてくれる渋い空間。あつ湯とぬる湯、ふたつの浴槽に満たされるのは無色透明のアルカリ性単純泉。肌あたりがよく、とろりとしたやわらかな浴感が心身をほぐしてゆく。
ぬる湯といっても、42~3℃とちょっとばかり熱め。静かに沈んでしばらく湯の熱さを噛みしめ、縁に座って小休止。額の汗をぬぐって見上げれば、明治9年から浴客に愛されてきた木造の空間美。

長湯厳禁。やわらかながらしっかりと温まる武雄の湯と戯れ、汗を引かせたところで駅方面へと戻ることに。それにしても、昨日も今日も陽射しがすごい。すっかり焼けた肌からは、はやくもあらたな汗が噴き出してくる。

温泉とともに、武雄で楽しみにしていた人生初の佐賀ご飯。九州まで来たんだから、ここはやっぱりラーメンでしょう。ということで、今回は『元祖後楽園』にお邪魔することに。

すでに先客で賑わう店内。どうやらちゃんぽんを食べている人も多いようだが、ここは邪念を振り払って初志貫徹でラーメンを。佐賀では生玉子をのせることが多いそうなので、郷に入ってはでトッピングで追加。
福岡大分熊本と、これまで九州3県のラーメンは経験がある。さてさて、佐賀はいったいどんな感じなのだろう。そうワクワクしつつ待っていると、お待ちかねの丼が運ばれてきます。
見た瞬間、これまで出逢ってきたものとは一線を画するものであると直感。さらに高まる期待に胸を膨らませつつ、まずはスープをひと口。
うわぁ旨ぇなぁ、これ。これまで食べたとんこつとはまったく異なる、じんわりと広がるやさしさ。しっかりとしたコクや旨味がありながら、すっと五臓六腑へと沁みてゆく。あっさりといえばあっさり、でも確かにとんこつラーメンではあるという不思議な感覚。
つづいて、ちょっとばかり太さのある麺を。これがまた、これまで九州では体験したことのない食感。やわらかいという表現ではしっくりこない、なんとも言えぬもちもち感。とんこつラーメンといってイメージする、あの小麦粉感が主張しない。
これ、やばいやつ。しゅるしゅるともち肌麺を啜り、するっとスープで追いかける。とんこつと合うのか?と思っていた玉子を割ってみれば、よりまろやかな味わいに。
旨いよ旨い。一緒に頼んだライス片手に箸が止まらず、気づいたら一滴のこらずあっという間に完食。これまでの濃厚なとんこつも最高だが、場所が違えばこんな進化のしかたがあるのかと脱帽。
はじめて自分の意志で訪れることのできた佐賀。ちょっとこれは、次は泊まりで来ないといけなくなったな。とろりとした湯とやさしいラーメンにすっかりこころを射抜かれ、近いうちに再訪せねばと強く強く誓うのでした。



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