弘前で迎える爽やかな朝。漏れる陽射しに期待しつつカーテンを開ければ、これでもかというほどの鮮烈な青空。今年も本当に、善き夏だったな。

とろりとした岩木桜の湯で最後の一浴を愉しみ、チェックアウトすることに。お城からのびる桜大通りには、昨夜の滾りの余韻を漂わせるねぷた小屋。並ぶ勇壮なねぷたたちに、来夏の再会を固く固く誓います。

その奥には、夏空に映える青森銀行記念館。年代や様式の異なる古き良き建物が、いまなお残る城下町。表情豊かな弘前の街、訪れるごとに好きになる。

昨晩の祭りの熱気を反芻しつつ歩く、土手町通り。14年前に初めて弘前を訪れて以来、何度ここを歩いたことか。この道に蓄積された想い出が、来年へとつながる希望となる。

あのとき、津軽藩ねぷた村に立ち寄っていなければ。そう思うと、縁やタイミングって本当に不思議なものだ。ゆらゆらと揺れる金魚ねぷたが、きっと僕をこの街へと誘ってくれたに違いない。

祭りの後と、終わりの始まりを迎えた僕の夏。そんなちょっとばかりの感傷とともに、空気感を噛みしめつつ歩く街。信号待ちの交差点でふと目をやれば、曳かれるときを静かに待つねぷたと山の字型の岩木山。

時刻は9時過ぎ。朝ごはんを食べるため、昨日に引き続き『虹のマート』にお邪魔することに。

今日も多くの買い物客で賑わう店内を、お目当てのお店にむけて一目散。そのお店というのが、地元弘前のアキモト製麺直営の『めんの店アキモト』。市場内は撮影禁止のためお伝えできないのが残念ですが、小さなカウンターのお店は渋くてものすごくいい雰囲気。
注文したのは、弘前へと来たらやっぱり食べたい津軽そば。今回は、そば粉九割の津軽幻のそばにミニ天と生卵をトッピング。手際よく作られてゆく様子を眺めていると、鼻をくすぐる善き香りとともに魅惑の一杯があっという間に完成。
まずは澄んだ色をしたおつゆから。漂う香りの通り、ぶわっと駆け抜けるだしの旨味と深み。昆布や煮干しを使ったおつゆは、甘ったるさのない津軽らしい潔い味。しょう油は思ったよりも控えめで、その分だしのやさしい風合いがより感じられる。
つづいて、津軽といえばの特徴的な麺を。そばがきにしてひと晩寝かせ、製麺してさらにひと晩。3日目にようやく茹でられ、袋詰めされて食卓に並ぶまでさらに寝る。そんな時間をかけて作られた津軽のそばは、他とは一線を画すもの。
箸先からも伝わる繊細さに期待しつつ口へと運べば、咀嚼する前に口内でほろりとほぐれてしまう。この独特なやわらかさこそが津軽のそばの最大の魅力で、この食感を一度知ってしまうともう忘れられない。
ほろりとほどけた麺からは、ふわっとほんのり香るそばの風味。どこまでも控えめで、どこまでもおとなしく。それは決して物足りないという意味ではなく、この地でしか体験できぬやさしさに満ちた唯一無二の味。
おだやかな麺とおつゆを数口愉しむころには、天ぷらはほどよくばらけ天かす状態に。それがやさしいおつゆにコクをもたらし、あらたな表情に変化。そこへ卵を割り麺をからめて啜れば、思わずうっとりと目を閉じてしまいたくなるような至福の味わいに。
旨いよ、本当に旨い。じんわりとした滋味をしみじみと噛みしめているつもりが、結局あっという間に丼は空っぽに。
これはまた、困った状況になってしまったな。駅のこぎんも好きだし、ここのおそばもまた違った旨さに満ち溢れている。またあらたに出逢えた弘前の味。増えてゆく選択肢に、うれしい悩みに頭を抱える未来が見える。

今年も津軽の熱さで迎えてくれた弘前。名残惜しくも、愛するこの街に別れを告げることに。虹のマートの向かいの弘前バスターミナルから、『弘南バス』のヨーデル号に乗り込みます。

市街地を抜け、東北道へと入り快走をはじめるバス。車窓には実りの気配を湛える豊かな田んぼ、それをやさしく見守る岩木山。遠くなりゆくお山の姿に、愛する津軽の地から離れるという実感が否応なしに湧いてくる。

バスは青森を抜け秋田へ。ぐっと近くなる山並みと車窓を染める田園の緑が、みちのくの夏の眩しさを胸の奥へと届けてくれる。

夏の青空と蒼い山並みのコントラストを愉しんでいると、ついにバスは岩手入り。日本の背骨を下ってゆくと、姿をあらわす岩手山。

見る角度により、姿かたちを変える岩手山。さきほどは南部片富士の異名どおりの力強い山容でしたが、ここからは左右に大きく裾野を広げる優美な姿が。
南部から旅ははじまり、津軽からまた南部へ。これでひと回りしたんだな。津軽と南部の象徴ともいえる雄大な山のバトンタッチに、旅は最終局面を迎えたことを実感するのでした。




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