夏色の車窓を愛でること2時間15分、ヨーデル号は盛岡駅に到着。いつもならここから街並み散策へと繰り出し飲んで帰るのですが、今日はちょっと違う。まだまだ僕の夏を終わらせまいと、最後にもうひとつのみちのくの熱さを浴びてゆくことに。

その舞台となるのは、高速バスが発着する西口のロータリーに面して建つ『マリオス』。オフィスや会議室のほか、展望室にレストラン、市民ホールとさまざまな施設の入る複合施設。

まずはエレベーターで最上階の20階へ。ここには無料の展望室が設けられ、東西南北に広がる大パノラマを愉しむことが。

盛岡の繁華街が広がる東口から南方面へと視線を移せば、延々と続く深い山並み。広大な岩手県の沿岸部と内陸部を隔てる北上山地、遠くにはその最高峰の早池峰山の姿もうっすらと。

さらに右手へと移動すれば、市街地や田園の先に屏風のように黒々と横たわる志波三山。

ぐるりと一周した先は、優美な姿を魅せる岩手山。うつくしい裾野を描く右側と、奥羽山脈と肩を組むようにのびる左側。好対照をなすその山容は、南部片富士の異名そのもの。

20階からの岩手の展望を胸いっぱいに吸い込み、時間になったところで2階の盛岡市民文化ホールへ。毎年8月1日~4日に行われる盛岡さんさ踊り。メインのパレードは夜間となりますが、日中はこのホールで伝統さんさ踊り競演会が開催。

お祭りとしての盛岡さんさ踊りで踊られるのは、昔から伝わる様々な踊りをもとに考案された4種類の型だそう。

それに対し、いまなおそれぞれの地域に受け継がれる伝統さんさ。以前駅前で見た統合さんさとはとはまったく異なる雰囲気が、はやくもこころを鷲掴みに。

地域が違えば、踊りもお囃子もテンポも装束もまったく違う。そんな伝統さんさに圧倒され、あっという間に前半終了。後半の1組目として出演するのは、ミスさんさ・ミス太鼓連。一般公募で選ばれるミスさんさ踊りにミス太鼓、ミス横笛にうたっこ娘が、しなやかな踊りやお囃子を披露します。

民衆を苦しめた鬼を三ツ石神社の神様が退治した際、喜んだ人々が三ツ石のまわりで「さんささんさ」と踊り囃したことが起源と伝えられるさんさ踊り。いわゆる盆踊りの一種に分類されるそうですが、なかには手ぬぐいを一斉に振り回すような振りもありかなり躍動的。

踊りの名手である一八を先頭に回ったり、周りを囲んで踊ったり。踊り手のみならず、大きな太鼓を抱えた太鼓打ちまでもがみな乱舞。その漲る力強さに、なぜだか目頭が熱くなる。

これはあくまでも僕の主観で妄想なのだが、観ている途中からどうしてもエイサーと通ずる部分があるような気がしてならない。人々の秘めたる熱さが、太鼓と踊りによって爆発する。圧してくるような迫力が、胸の深い部分をぎゅっと締め付ける。

それぞれの踊りに込められた意味、それを彩るお囃子。そして特徴的なのが、「サッコラチョイワヤッセ」という掛け声。サッコラを漢字で書くと幸呼来、つまり幸福を呼ぶという意味が込められているそう。
もうひとつ、今回初めて聞いた「キッキィエカッコ」というこれまた不思議な掛け声。吉祈栄活呼と書くそうで、吉を祈り繁栄や活気を呼ぶという意味だそう。

厳かな太鼓のリズムからはじまり、躍動感あふれる演舞を〆る礼踊り。そして最後は、儚げな音色とともに去ってゆく。そんなさんさ踊りの世界観に圧倒され、3時間にわたる競演会も終了。最後の団体の礼踊り、深々とお辞儀する姿に自ずと熱いものがこみ上げる。

これが、さんさ踊りというものだったのか。各地域で育まれた圧倒的な熱量を浴びつづけ、なかば放心状態で駅へ。未だ心ここに在らずな状態のなかなんとかお土産を選び、ちょっと早い時間ながら『ももどり駅前食堂』へとお邪魔します。

朝ごはんを軽めにし、お昼も抜いたのはここでがっつり呑んで帰るため。まずは冷たいビール片手にメニューを眺め、お気に入りの身欠きニシンとフキの煮物から。乾物ならではのほっくりとした凝縮感あるにしんの旨味、それを瑞々しさで支える薄味のふき。ほんのり香る山椒が心憎く、岩手の酒がはやくも進む。
一緒に運ばれてきたのは、手造り沢内がんも甘辛煮。思わずうぉっ!と声の出るボリュームで、これは我慢して腹を空かせて正解だった。
こだわりの豆腐で作られたがんもは具沢山。表面はじゅわっと香ばしく、中はふんわり残る豆腐の風合い。ひと口ごとに具材の奏でるアクセントが変化し、甘辛煮といいつつ濃すぎない味付けが素材の風味を活かしてくれる。

がんもの思いがけない存在感に圧倒されていると、つづいて注文していたももどりが完成。しっかりと漬け込まれた骨付きももを、オーブンでこんがりと。皮目はばりっと香ばしく、肉々しさとジューシーさを兼ね備えた身。びりりと香るスパイシーさも相まって、盛岡に来たら食べなきゃならんと思わせる中毒性。

17時を過ぎると頼める酒のアテが増えるのでぜひそれをと目論んでいましたが、思いがけない量にそろそろお腹はいい感じ。そんななか、1枚から頼めるのがうれしいビス天を追加。
西和賀の郷土の味だというこの料理。厚めの衣はさっくりもちっと、包まれたビスケットは火が入りほっくりと魅惑の食感に。熱により素朴な甘さが引き立ち、岩手の酒をさらにぐいっといきたくなってしまう。

こりゃあきらかに喰いすぎだ。でも僕の食欲は止まらない。絶対頼もうとこころに決めていたじゃじゃ麺で、この旅の有終の美を飾ることに。
運ばれてきたら、間髪入れず調味開始。にんにくやラー油を好みの量加え、肉味噌やしょうが、きゅうりとともに念入りに混ぜ混ぜ。全体がよく絡んだところで、満を持していただきます。
茹であげそのまま、水洗いしていないうどん。もっちもっちの食感、そしてぺとっとしたでんぷん質がこの料理の身上。肉味噌や調味料をよくまとった麺は、それにも負けないしっかりと感じる小麦感。きゅうりや紅しょうがをはさみつつ、旨い旨いよとため息まじりであっという間に平らげます。

すっかり盛岡の〆の恒例となった、ももどり駅前食堂でのおいしい時間。いつも最後は忙しくなってしまいがちなので、今日は早めにお店に入って大正解。こころにゆとりをもちながら、ゆっくり愉しんだお気に入りの味。もう、思い残すことなど何もない。そんな満たされた気持ちで、盛岡駅へと吸い込まれます。

もうすぐ大通りでは、さんさ踊りの最後の夜がはじまるのか。今度は絶対、泊りだな。南部の人々の情熱と、酒の余韻に絆され浴びる西日。その眩さに目を細めていると、僕を日常へと連れて帰るこまち号がゆっくり入線。

東北町に幕を開け、南部から津軽、そしてふたたび南部へとぐるりひと回りした今回の旅。
何度でも逢いたくなる、津軽の猛り。そして今回はじめて目の当たりにした、南部の情熱。ねぷたとさんさ、ふたつの祭りの鮮烈な対比。それぞれの熱き思いこそが、今夏のかけがえのない想い出に。
ぃやぁ~やぁどぉ~、さっこら〜ちょいわやっせ~。その掛け声が、いまなお耳に残って離れない。八重山とみちのく、それぞれが揃ってはじめて完成する僕の夏。そこにまたひとつ、南部の熱気が刻まれた。
今年も本当に、善き夏だった。沈みゆく夕陽だけではない何かが、僕のこころを茜色へと焦がしてゆくのでした。




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