中尊寺で古の人々の夢見た極楽浄土の美しさに浸り、時刻は丁度お昼どきに。月見坂下の駐車場周辺にはご飯が食べられるお店が並んでいますが、今回はその中から『衣関屋』にお邪魔してみることに。
1階がお土産屋、2階が食堂となっている懐かしい雰囲気の造り。団体さんにも対応できそうな大きな空間にはテーブルとお座敷がずらりと並び、カップルや家族連れでほぼ満席状態。一人客、僕だけだなぁ。などと思いつつビール片手に待つことしばし、注文したもち・そばセットが到着。
まず目を引くのが、そばの太さ。色の濃い田舎そばはなかなかの存在感で、その見た目通りガシッとしたしっかり目の食感。おれ、主食!という自己主張を感じます。風味も期待を裏切らずしっかり濃い目で、久々にこのタイプのそばを食べられたと思わず嬉しくなってしまいます。
続いては3種類並ぶお餅を。左上の生姜餅はしいたけと生姜の温かい餡が掛けられ、爽やかな辛味が食欲をそそります。隣のずんだ餅は少々甘めですが、しっかりと粒の残された枝豆の食感と濃厚な風味が餅に負けじと絡みます。右のえごま餅にはえごまのたれがたっぷりと掛けられ、お餅の甘さに香ばしさが加わり素朴な旨さ。
そばっち、もちっち、旨かったよ!わんこきょうだいの顔を思い浮かべつつ、雨の中を再び歩きだします。東京から青森へと続く奥州街道。その通り沿いを彩るのは、渋い佇まいの蔵と色づき始めた桜紅葉。
脇道へと逸れ、毛越寺を目指して坂を上ります。すると開ける、枯色の展望。田も木々も、全てが冬へと向かうよう。これから迎える、雪に閉ざされる季節。その前にと今年最後の輝きをみせるから、秋という季節には深い味わいが宿るのかもしれない。
行く手に緑豊かな舞鶴が池が見えれば、毛越寺はもうすぐ。池の隣には阿弥陀堂が建っていたそうですが、今はただ広大な跡地が横たわるのみ。諸行無常、栄枯盛衰。秋色とこの天気が、一層感傷を深めるのかもしれない。
中尊寺から雨に濡れつつ歩くこと30分、毛越寺に到着。この季節に訪れるのは初めてのため、これからどんな光景が繰り広げられるのかと自ずと期待が膨らみます。
まずは大屋根が立派な本堂にお参りを。3年ぶりに再び訪れることのできたお礼を伝えます。
久々の対面となる、浄土庭園。雨に打たれる大泉が池には無数の波紋が広がり、周りには彩りと侘びを添える色付く木々が。
借景となる奥の山からは、ゆっくりと立ち上るうっすらとした靄。しっとりと雨に濡れる大泉が池は、この時期この天候だからこその風情に包まれます。
進むごとに、その表情を変える浄土庭園。海辺の景観を表現したという大泉が池には、浜や荒磯、様々な水辺の景色が凝縮されています。ごろごろとした石の先に小舟が浮かぶ様は、まさに磯の風景そのもの。
毛越寺を開いた慈覚大師をまつる開山堂。背後には色づき始めの紅葉が彩りを添え、これから迎える今年一番の輝きの予感が漂います。
かつては幾多ものお堂が建ち並んでいたという浄土庭園。かつての講堂跡には鮮やかに染まる紅葉が並び、雨に濡れしっとりと艶やかにその色彩を輝かせています。
庭園を包む芝生にも宿る、秋の気配。これまで味わった桜の時期や盛夏にはないもの寂しさが、この世界観を一層味わい深くさせるよう。
秋晴れに燃えるような紅葉もいいけれど、雨に濡れる侘びと寂びの世界もまた美しい。雨には雨の良さがある。この絶妙な感傷に浸るべく、庭園歩きは更に続きます。
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