大きな想い出をくれた青荷温泉に別れを告げ、いよいよ青森を去る時間に。黒石駅から弘南鉄道に乗り、弘前駅を目指します。
大きく揺れる車内から眺める、のんびりと流れる車窓の景色。青々とした田んぼが広がるこの景色ともしばらくお別れかと思うと、何となく寂しさを感じます。
弘南鉄道、奥羽本線と乗り継ぎ新青森に到着。この駅に降り立つのは、大雪でカシオペアが運休になったときに訪れて以来。
僕の中での青函の玄関口といえば、昔は盛岡、最近までは八戸。まだこの駅で乗り換えるというのが自分の中で定着していないので、ここに立っても何となく実感が湧きません。
とは言え、新青森駅の1階にはお土産やさんが並ぶ大きなエリアがあり、青森土産を買うにはとても便利。僕もばあちゃんへのお土産と、車内で飲むためのワンカップを品定め。
いつもは新幹線を降りてすぐ白鳥へ乗り継ぐのが定番になっていたため、こんなのんびり買い物ができるのも楽しいもの。目的地へ直行するのではなく、敢えて寄り道する。そんな旅もいいなぁ、などと再認識させられます。
お土産や駅弁、ワンカップを買い込み、早めにホームへ。そしていよいよスーパー白鳥が入線。
JR北海道のカラーである明るい緑が鮮やかな、これぞJR北海道車といったフォルムの特急電車。この顔こそが、僕の北海道への玄関口そのもの。この顔を見るだけで、僕の心は北海道色に染まります。
ドア口を彩る本州と北海道。このデザインこそが、この列車に託された使命の全てを物語っています。
連絡船時代の苦労は知らない僕ですが、青函トンネル開通により、だいぶ移動しやすくなったことでしょう。船から鉄路へ。そしてもうすぐ、白鳥から新幹線へバトンタッチ。それまでの間、スーパー白鳥は青函連絡の使命を負って走り続けます。
デンマーク国鉄と共同開発したというこの車両は、それまでのJR北海道の特急車とはまた違った内装が印象的。
特に天井は津軽海峡をイメージさせる深い青が使われており、これから向かう青函トンネル、そしてその先に広がる北の大地への期待を弥が上にも駆り立てます。
この3日間、本当に楽しませてくれた青森県との別れ。車内で最後の青森地酒を楽しむこととします。まず開けたのは、八戸酒類株式会社の八鶴純米酒。東北のお酒らしい、すっきりとした飲み口が僕好みのお酒。
旨い酒のお供はやっぱり駅弁が必要。今回も、ウェルネス伯養軒の調製する大人の休日津軽物語を購入。
最近本当にこの大人の休日シリーズばかり買っている気がします。それ以外でも、東北へ来るとこの伯養軒のお弁当。きっと内容や味付けが僕の好みとぴったり一致しているのでしょう。
このお弁当は2段重ねになっており、壱の重が若竹ご飯と雲丹ご飯。青森県産のお米が使われており、冷めてもモチモチの食感。
若竹は程よい味付けで煮られており、シャキッとした歯ごたえと筍の風味が楽しめます。雲丹は蒸されており、生とはまた違った濃厚さ。火を通した雲丹は甘味が増し、ご飯との相性もピッタリ。
弐の重には様々なおかずが詰められています。大ぶりの帆立の甘辛煮はホクホクとした食感が美味。青森の帆立は本当に美味しいですね。
紅鱒の粕漬けはほど良い酒粕の風味で嫌らしさは無く、ご飯にもおつまみにも最適。地場野菜の煮物や鶏の治部煮も丁度良い味付け。そのほかに長芋の紅梅漬けや山牛蒡、焼き蒲鉾などの脇役たちもひとつひとつしっかり美味しい。
やっぱり今回もこのお弁当を選んで正解。酒飲みには、ちょっとずつ色々な味が詰まっているのが堪らないのです。
青森の幸が詰まったお弁当をつまみに、2本目のワンカップを開けます。こちらは、丸竹酒造店の純米吟醸白神ロマンの宴。嶽温泉の夜に飲んだ大輪菊盛と同じ蔵元のお酒です。
辛口ではありますが口当たりが良く、甘味やフルーティーさも感じるバランスの良いお酒。東北6県全て酒どころ。どの県も美味しいお酒がゴロゴロ転がっている。これだから東北への旅は止められません。
青森の名残を惜しむように駅弁と地酒に舌鼓を打っていると、鉛色の陸奥湾が車窓を占領していました。幾度と無く通ったこの津軽海峡線。この陸奥湾を見ると、もうすぐ本州ともお別れだという実感が湧いてきます。
列車が進むにつれ、どんどん濃い霧に車窓は包まれていきます。こんなにどんよりとした青函路は初めて。いつもなら何も感じませんが、青森で3日間を過ごした今見るこの景色は、堪らなく寂しい。青森という土地に後ろ髪を引かれる思いで、流れる車窓を眺めます。
警笛一声響かせて、列車はついに青函トンネルに突入。いつもなら必ず祝!本州脱出、といった気分で迎えるこの瞬間ですが、やっぱり今日は何となく違う。
今まで、青森は北海道への通過点としてしか通ったことがありませんでした。青森をきちんと旅したのは今回が初めて。そんな青森で、ねぷたや三味線と出会い、嶽や青荷といった名湯と出会い。今回の旅で、すっかり青森が好きになってしまいました。
ありがとう、青森。必ずまた来ます。今まで感じたことの無い想いを胸に、暗い闇へと滑り込むのでした。
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