どこまでも広がるさとうきび畑の中を、暑い暑い言いながら自転車で駆ける夏休み。島をほぼ一周する間に肌へと宿った波照間の灼熱を癒すべく、島で唯一の海水浴場へと向かいます。それにしても坂の先が、もうすでに青いんですけど!
視界にちらつく青さに急かされつつ坂を駆け下りれば、眼前に広がるこの色彩。これまでの人生で出会ったことのない得も言われぬ青さこそが、波照間ブルーという固有の色であるということを一瞬で悟ります。
ありふれた表現だけれど、今のこの状態を表せるのは「息を呑む」という言葉だけ。人間って、こんな瞬間に出会うと、「なんだよ、コレ」としか言えなくなるものなんですね。
もう居ても立っても居られない!更衣室で水着に着替えるのすらもどかしく、到着時から視界を染めきっている波照間ブルーへと一目散に駆けだします。
豊かな緑の中を抜ける小径を下り、進むごとに面積を増してゆく壮絶な青さ。縮まる海との距離と、反比例するかのように遠ざかる現実。この世のものとは思えぬ美しさへと、一歩、また一歩と近づいてゆきます。
石垣とも、竹富ともまた違う、波照間の青さ。写真では決して伝えきれないそれぞれの風合いは、実際に訪れその眼で心で触れた者だけが許される贅沢そのもの。
僕をクラクラさせる、波照間の太陽だけではない特別な何か。あまりにも現実離れした美しさの中に身を置けるという至極の贅沢に酔いしれ、軽い眩暈のようなものすら感じてしまう。そんな逆上せきった気持ちを落ち着けるべく、シートを敷いて荷物を下ろします。
海の色合いもさることながら、これまで訪れた八重山の浜とはひと味違う色味を持つニシ浜の砂。どことなく温かい色をした砂を潤す、パステルの青。この色彩の対比こそが、ニシ浜の浮世離れした美しさを形作っているのかもしれない。
寄せては返す波に誘われるかのように、いざ海へ。青一色とは言えぬ豊かなグラデーションの中へ、自分の内側が溶けだしてゆくこの感覚が堪らない。
そのまま砂地へと腰掛ければ、心身の隅々まで染み渡る波照間ブルーとの一体感。温すぎず冷たすぎずの波に身を委ねれば、もうこれ以上の贅沢など何もいらないとすら思えてしまう。
体を揺らす海の鼓動、肌を刺す南国の陽射し。強い海風に目を見開けば、視界の全てを占める青の世界。またひとつ、八重山の海の色を知ってしまった。この清らかな波照間ブルーに一度触れてしまうと、もう後戻りなどできるはずもない。
波に揺蕩い八重山に溶けゆくという至極の時間に存分に酔いしれ、浜へと戻ることに。ふと足元へと視線をおろせば、白い珊瑚をカラカラと洗う清らかな波。寄せては返す透明なきらめきに、思わず立ち止まり見つめてしまう。
繰り返し足に感じる、穢れなき海のリズム。僕は、何て場所へ来てしまったんだ。あまりにも感動すると、ある種の切なさすら感じてしまう。久々に襲われるこの独特な感覚を噛みしめ、呆然自失で波の煌めきをただただ目で追うのでした。
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