予定を変更し偶然出会えた、川平湾を染めるエメラルドグリーンの美しさ。小一時間の滞在を満喫し、再び『東運輸』の西回り伊原間線バスターミナル行きに乗車し次なる目的地を目指します。
川平から山手へと入り、豊かな緑の中を進むバス。ふと視界が開けたかと思えば、車窓いっぱいに溢れるこの眩さ。白い雲の浮かぶ夏空と、太陽の力を授かり輝く名蔵湾。それぞれの放つ鮮烈な青は、夏の煌めきそのもの。
昼下がりの爽快なバス旅に揺蕩うこと20分ちょっと、八重山自然村入口バス停に到着。次の目的地へはここから坂を下って登って約10分。バス通りを下って看板の指示通りに右折し、そのまま道なりに進みます。
その先に観光施設がありそうな気配のない道を歩いてゆくと、突如大きな駐車場とともに建物の姿が。その隣の小さな券売所でチケットを買い、日本最南端に位置する『石垣島鍾乳洞』へと挑みます。
入口から洞内に向け、下へ先へとのびる通路。一歩足を踏み入れれば、そこはもう外の熱気とは隔絶された世界。ひんやりとした心地よい空気が体を包みます。
さすがは珊瑚からできた石垣島。島自体が石灰質だからか、洞内は想像以上の大きさに成長した無数の鍾乳石。
素人なので詳しいことは分かりませんが、雨の多さも成長に影響しているのでしょうか、とにかくこの洞窟は鍾乳石だらけ。洞内はどこもかしこも鍾乳石に覆われています。
この鍾乳洞は、約20万年の時をかけて造り上げられたものだそう。20万年自体相当長い時間に変わりはありませんが、普通の鍾乳洞の成り立ちはウン億年単位。そのことからも、ここの鍾乳石の成長スピードの早さが解るよう。
僕もこれまでいくつか鍾乳洞に入ったことはありますが、いつも大きめの鍾乳石に出会うとおおっ!と感嘆していました。でも石垣島鍾乳洞では、いい意味でもうこの有り様。見渡す限り鍾乳石が覆いつくす光景は、いちいち驚いていられぬほど。
現地で直感した通り、帰ってから調べてみるとやはりここの鍾乳石の成長スピードは驚異の早さなのだそう。通常は1㎜成長するのに10~30年かかるところ、ここでは3年しかかからないとのこと。
つまり、普通よりも3~10倍もの早さで成長を続けている石垣島鍾乳洞。大小無数の鍾乳石が連なる姿からは、今なお大地が現在進行形で溶け続けているということが手に取るように伝わります。
珊瑚からできた石灰質の地盤、山に降り注ぐ豊かな雨。そんな石垣島ならではの条件が揃い、自然が造り上げた壮大な世界。市街地からも見える小高い丘の地下に、こんな場所が隠されていたなんて驚きです。
艶やかであったり、ざらついていたり。見事な鍾乳石の質感そのものを楽しみつつ歩いていると、その先にはライトアップされた一画が。
様々な色味でライトアップされる鍾乳石。その色合いが変わるごとに、鍾乳石もその表情を刻一刻と変化させてゆきます。
もうこうなってくると、洞内全体が溶けている。そんな表現すらしたくなってくるほどの、鍾乳石の圧倒的迫力。幾筋もの鍾乳石の束が、柱の様に上から下まで繋がっています。
近づく水音を感じつつ進んでゆくと現れる、見事に並ぶ棚状の池。水に含まれる石灰分が長い年月を経て縁を形成してできるリムストーンは、まるで人工物のような不思議な造形。
美しい地底湖ができるだけあり、ここは特に地下水が多いところなのでしょう。見上げれば無数に下がる鍾乳石。水に艶めくその姿からは、「どろり」という音すら聞こえてきそう。
その下には、見覚えのある姿の鍾乳石。これきっと、そのうち七国山ゆきのバスが来ちゃうよね。傘に当たる雨粒の音聞いて、喜んじゃうやつだよね。
地面から生える幾多もの石筍。その大きさのみならず、類を見ないほどの多様な姿。独特な形状をした石筍が無数に並ぶ様子は、自然が何かしらの意思をもって造ったのだとさえ思えてしまう。
幻想的な世界観に包まれた地底部を抜け、出口へと向け登り始めます。この鍾乳洞は、全長3.2㎞あるのだそう。公開されているのはその一部とはいえ、見学コースは660m。想像以上に見ごたえがあります。
もうすぐ出口と思ったところで、最後に出迎える巨大な空間。聳え立つ鍾乳石も巨大なため伝わりにくいかもしれませんが、この空間に立ったときの迫力はかなりのもの。
この荘厳さに包まれるホールを最後に、順路は出口へと進みます。その前にもう一度振り返り、見事な鍾乳石の造形と心地よい冷気の名残を惜しみます。
一度来てみたいと思ってはいたものの、バスでのアクセスがあまり良くない石垣島鍾乳洞。でも今日ここに来ることができて、本当に良かった。想像を遥かに超える地底の世界に迷い込み、石垣島の抱くまた新たな一面に触れるのでした。
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