美しい海から幻想的な地底の世界まで、たっぷり楽しんだ石垣島めぐり。鍾乳洞から歩いてホテルに戻り、部屋で一旦クールダウン。さあ出かけようかというタイミングで、またまた雲行きが怪しくなってきました。
今日の夕飯は、市街地から少し離れたお店を予約済み。バスターミナルへと向かい、再び『東運輸』のバスにお世話になります。それにしても今日一日、こんなにバスに乗ってもたった1,000円。フリーパスは観光客の強い味方です。
バスに乗った途端、地面を叩きつける強い雨。この先バス停から少し歩くんだよな。そんなことを思いつつ八重山病院線に揺られること10分、真喜良郵便局前バス停に到着。しばらく雨宿りしていると次第に天候は回復し、空には薄っすらと架かる二重の虹が。
傘もいらないほど雨も小降りになったので、お店を目指して歩きだすことに。遠くにバンナ岳を眺めつつ行く、雨上がりの道。肌を撫でる涼しい風、耳に届くサトウキビ畑の爽やかな葉擦れの音。
雨上がりのさんぽを楽しむこと15分、今宵の宴の場である『舟蔵の里』に到着。5年前に訪れ、おいしい料理と世界観に心酔したお店です。
早速門をくぐると、水鉢に浮かべられた色とりどりのハイビスカス。先ほどの雨で細かい水滴を纏い、その艶めきを一層増すかのように揺れています。
その先には、大きなシーサーがお出迎え。深い緑の中、いくつかの古民家が点在する舟蔵の里。古の八重山の空気が感じられるようで、郷土の味もさることながらこの情景自体がもうご馳走。
そして今夜の宴の舞台となるのが、一番大きなこの古民家。雨に濡れしっとりと佇むその姿に、泡盛を飲む前から早くも心は火照り気味。
店内へと入れば、一気に包まれる温かな雰囲気。経た時が色となって染みついた太い梁や柱、窓の外を染める豊かな緑。八重山の古民家で暮らしたら。そんな妄想が思わず頭をよぎります。
まずは冷たいオリオンで乾杯し、島ダコとセイいか造り盛合せを。島ダコは噛めばギュッと詰まった旨味がじんわりと広がり、ねっとり甘いセーイカも間違いのないおいしさ。
そのお隣は、うなぎの肝煮。舟蔵の里の敷地内には日本で最南端のうなぎ屋さんがあり、ずっと気になっていたので注文してみることに。肝の旨味やコクを活かす濃すぎず薄すぎずの味付けに、早くも泡盛が欲しくなります。
続いては、郷土料理であるどぅる天を。沖縄でよく食べられる田芋に、ずいきや椎茸、かまぼこや豚肉などを混ぜて揚げたもの。さくっと噛めば、まったりとした味わいが広がります。
この味わい、僕の語彙力では表現できない。強いて言えば、おいしいお惣菜をギュッとして揚げたという感覚。これ、本当においしいわぁ。
どぅる天とともに運ばれてきた、石垣牛すじ煮込み。とっろとろに煮込まれた牛すじの食感、薄口の上品なだしに溶けだしたお肉の甘味。牛すじのおいしさを余すことなく味わえる逸品です。
そして今日も大好物の地豆豆腐を。このお店では揚げ出しにして出されます。もっちりとした衣の下には、熱を加えられとろりと柔らかくなったジーマーミー豆腐。ふんわりと広がる落花生の香りが、泡盛をこれでもかと誘います。
泡盛の心地よい火照りを感じつつ、八重山の味に浸るひととき。温かみのある古民家に抱かれ至福の時間に揺蕩っていると、どこからか耳へと届く三線の調べ。時節柄無理かもと思っていただけに、突然始まった生唄に胸の奥深い部分に切なくも温かい火が灯るよう。
5年前、旅の夜の勢いで踊ったことが昨日のことのように思い出される。さすがに今年は踊りはなかったけれど、三線の音色に染まることができた。そんな嬉しさの余韻つまみに泡盛を飲んでいると、注文していたミヌダルが到着。
ミヌダルとは豚肉の黒ごま蒸しで、琉球王朝の宮廷料理なのだそう。蒸された豚肉は余分な脂が落ち、しっとりと柔らかな食感。黒ごまもこれだけ使われているとくどいかな?と思いましたが、全くそんなことはなくごまの旨味と香ばしい風味に溢れる滋味深い味わい。
ずっとずっと、こんな時間が続いてくれたら。そう思わせてくれる穏やかで豊かな宴も、もうそろそろ終わりの時間。最後の〆にと頼んだのは、僕の大好物そーみんたしゃー。
って、ソーミンチャンプルーと何が違うの?と思ったところ、タシヤーとはでんぷん質のものを炒めたものを指すのだそう。厳密にいえば、チャンプルーは島豆腐が入った炒め物のことなのだそう。そのニュアンスの違い、沖縄ってやっぱり奥が深い。
そうめん以外の具材はなく、薬味にねぎと海苔が載せられただけのシンプルさ。ひと口啜れば直球ど真ん中、僕の好み直撃の味。汁気はなく、細い麺に絡む程よい油分。それでいて油っぽいわけではなく、コクとともに広がる小麦の味わいと濃いだしの旨味。もう本当に、惚れ惚れする旨さ。
実は、今日は僕の誕生日。僕のたっての希望で訪れた舟蔵の里は、5年前と同じく温かみのある雰囲気と八重山の味、そして三線の音色で包んでくれた。はぁ、石垣に住みたい。宴の余韻に、そんなことを願ってしまう。
ホテルに戻り、泡盛片手に宴の続きを愉しみます。そのお供にと選んだのは、宮城菓子店の生くんぺん。とってもおいしい宮城菓子店のくんぺんですが、生くんぺんは初めて。もちっとしっとりの生地と、口中に広がるごまや落花生の香ばしさ。焼いたくんぺんとはまた違う味わいで、似て非なるお菓子といった印象。
今日は一日、石垣島を満喫した。今年もこうして八重山にいられるという幸せを噛みしめ、更けゆく夜に静かに身を委ねるのでした。
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