標高1100mを超える高地で楽しむ青白いにごり湯。その爽快感と硫黄の香りに酔いしれたところで、夕食の時間に。大きな食堂の窓越しに暮れゆく山々を見ながらの夕餉です。
まずは前菜や小鉢から。ほたるいかの干物や鶏ごぼう巻き、むらさき芋団子をつまみながら、地酒をちびちびと。冷たいもずく酢や、山の宿ならではのミズとふきの和え物が、お湯とお酒に火照った喉を涼やかにしてくれます。
左の葛饅頭はほうれん草ととうもろこし入り。中にはねっとりとした里芋が包まれ、控えめな餡と共につるっと美味しくいただきます。
続いてお刺身と天ぷらが運ばれてきました。天ぷらは揚げたてサクサクで、特に緑色の、うどの芽の天ぷらが美味。この時期ならではのご馳走です。
こちらはカレイの奉書焼。味噌が塗られたふっくらとしたカレイの上に、たっぷりの山菜が載っています。山の宿ながら、こうして工夫された海のものが出てくるのも嬉しいところ。
そして熱々の豚と野菜のせいろ蒸し。さっぱりとぽん酢が良く合います。豚の脂の甘さもさることながら、敷かれたキャベツやニンジンの瑞々しさと甘さ、歯ごたえが堪りません。
ボリューム満点の美味しい食事で満腹になり、部屋で寝ころびしばしの休憩を。お腹が落ち着いたところで、夜の大露天風呂へと向かいます。
日帰り入浴時間中は賑わう大露天も、夜になると宿泊者だけの静かな環境に。ライトアップされた大日岩を望みながら浸かる、大地の白く濁った恵みの湯。昼の太陽を透かした色とはまた違った青白さが、湯浴みの時間を一層愉しみ深いものとします。
といってもそこは、とても温まるお湯。長湯は厳禁なので、良きところで上がり、幻想的な大日岩や、落ちてきそうなほどたくさん輝く星を眺めて湯上りの時を楽しみます。
プラネタリウムのような、文字通りの満天の星空。その姿を写真に収められないのが悔しいのですが、やはりそれは行った者だけが味わえる贅沢、ということなのでしょう。
星空と硫黄の余韻につつまれつつ、晩酌スタート。今夜のお供にと選んだのは、宮守川上流生産組合が造る、遠野どぶろくからくち。遠野は全国で初めてどぶろく特区として認められた、言わば現代のどぶろく発祥の地。
そこで醸された、見るからに濃厚そうなどぶろくをひと口すすると、想像を遥かに超える濃度にまずビックリ。いやぁ、濃い、本当に濃い。おかゆ、というよりおじやを啜っているよう。そしてからくちの名の通り、無駄な甘みの全くない、ドライな感じ。
こんなどぶろくは飲んだことがありません。すっきりとし嫌な後味がないので、意外にもクイクイ飲んでしまいそう。でもそれは危険。アルコール度数は15度と、日本酒と同じ強さ。ペースに気を付け、噛むようにひと口ひと口と、ゆっくりしっかり味わってゆきます。
どぶろくを茶碗一杯ほど愉しんだところで、再び温泉へ。今度は静かな夜の雰囲気に包まれた大浴場へと向かいます。
木がふんだんに使われた大浴場は温かい山の湯の雰囲気に覆われ、豪快・爽快・開放的な大露天とはまた違った良さがあります。
こちらにもこのような露天風呂がありますが、滞在中はずっと熱く、足を浸けるのがやっとでした。露天を味わいたい場合は、大露天風呂の営業時間中に訪れるのが確実のようです。
露天は熱くとも、内湯の大きな浴槽はまさに適温。横に長いので、自分の好みの温度を探し、そこに体を沈めます。
肩まで奥羽の山の恵みに浸かれば、すぐに鼻をくすぐる、湯気に運ばれた硫黄の香り。濃厚なお湯はその姿もまた濃厚で、穏やかに静まった湯面は、ミルキーな色をした鏡のよう。
湯けむりに包まれた浴場の中、細かな湯の花が舞うにごり湯に身を委ねる。奥羽の懐と星空に抱かれた静かな夜は、こうして溶けゆくように穏やかに過ぎてゆくのでした。
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るるぶ
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