更けゆく津軽の夜に舞う、幾多もの灯り。朱色で描かれた鍾馗様は、邪気を払うかのごとく夜空を激しく焦がすように輝きます。
来るたびに様々な表情を魅せる、大小のねぷたたち。力強い龍神とお不動様に、人々の願う安寧への想いが伝わるよう。
あどけない顔をしつつ、大きな鯉を捕まえる金太郎。一枚の絵の中に繰り広げられる色彩と表情の応酬に、思わず言葉もなく見入ってしまう。
中国や日本の故事にまつわる題材の多い鏡絵。そんな中、昔ばなしで見慣れた姿が。凛々しい表情をした桃太郎が、犬や猿、雉と共に鬼退治。
漆黒の夜空と水面に浮かぶ、蓮の花。大きく羽を広げた孔雀の妖艶な姿は、極楽浄土の幽玄さを表しているかのよう。
題材や絵師により、様々な顔を持つねぷた。鮮やかな色彩と透ける光の計算しつくされた鏡絵は、見る者の目と心を捕えて離しません。
次から次へとやってくる、灯りの洪水。大きなねぷたの放つ光は津軽の夜空を焦がし、その残像を忘れえぬ記憶として胸へと焼き付けるかのよう。
魂を揺さぶるような、力漲る龍と虎。一枚の和紙に描かれたとは思えぬ眼光の鋭さに、思わず射すくめられたように目を離せなくなってしまう。
時折、激しく回転する扇ねぷた。綱を持つ人は華麗な足さばきで周囲を駆け、上に乗る人々は拍手の応酬に手を振り応える。間近で見る迫力ある動きに、この祭りに掛ける地元の人々の思いの強さが滲むよう。
夜闇に輝く金の蛸。多幸、その言葉の通りになって欲しい。新しい時代を迎えた今夏のねぷたには、そんな人々の願いが随所に見受けられます。
表裏一体の扇ねぷたの美しさもさることながら、迫力ある造形が魅力の組ねぷたもまた味わい深い。勇壮さを違う形で表現する。これは扇ねぷたと組ねぷたの両方が見られる弘前ならではの醍醐味。
夜空に大きく輝く、弘前藩祖為信公。幾多ものねぷたに描かれるその姿に、地元の人々にいかに深く愛されているかが伝わるよう。
妖艶な美人画を彩る、数々の動物たち。虎に龍、ガマや象の独特な表情に、古くから日本人が培ってきたエキゾチックな一面を垣間見ます。
大きいねぷたは後から。昔からそう伝わるようで、趣向を凝らした小さいねぷたの後にやってくる大きなねぷたを待つワクワク感が堪らない。次はどんなのが来るんだろう。そのメリハリがあるからこそ、2時間以上にも渡る運行も飽きずに見られてしまうのです。
そしてついにやってきた、今宵の最後を飾る勇壮なねぷた。激しい中にも目を引く色彩の深みを感じさせ、光と色の洪水に満たされた夜の締めくくりにふさわしい艶やかさ。
気付けばあっという間に、終わってしまった。初日の最後を〆る津軽剛情っ張り大太鼓の重たい響きに、充足感と共に若干の感傷すら覚えてしまう。一年振りに、出会えた熱さ。その逢瀬の名残が心地よく、遠ざかる祭りの賑わいを放心状態で見送るのでした。
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