半日を掛けのんびり歩いた、弘南鉄道沿線ぶらり旅。今日は本当に、夏だなぁ。最高の夏休みを過ごせているという充実感に包まれつつ、夏草茂る長閑なホームに佇みます。
今日一日、ずっと姿を見せ続けてくれた岩木山。思い返せば7年前、岩木山神社に参拝しようとしたタイミングで突然の豪雨に見舞われました。それ以降、通うごとに姿を少しずつはっきりと見せてくれるようになった津軽富士。僕の好きという気持ちが伝わったのだろうか。何となく、そんなことを想ってしまう。
ホテルで一旦クールダウンし、祭りの前の腹ごしらえを。今夜も居酒屋で郷土料理をと思いましたが、お酒を買うために立ち寄った中三百貨店の地下で旨そうなラーメンの気配についつい捕まってしまいました。
そのラーメンというのが、『中みそ』。中三百貨店の味噌ラーメンということで、古くからこの愛称で親しまれてきた弘前の味なのだそう。敢えて弘前で夕食にラーメンという選択肢がなかったのでこれまで食べたことはありませんでしたが、ずっと気になっていた存在です。
まずは味噌の存在感を感じる色合いのスープから一口。あれ!?ん?ぅん??甘いぞ?これまで甘味のある味噌ラーメンを口にしたことがなかったので、意外な先制パンチに思わず舌がびっくりしてしまいます。
その色の通り味噌はしっかりと濃く、そこにたっぷりと加えられ存在感を放つにんにくと生姜の風味。そこまでは慣れ親しんだ味噌ラーメンなのですが、このラーメンを印象付けるのがその独特な甘味。好き嫌いが分かれるかもしれませんが、僕は好き。田楽や五平餅の甘味噌って、美味しいじゃん。そんな感じなのです。
たっぷり載せられた野菜はシャキシャキで、存在感抜群のスープを丁度良く中和してくれる存在。麺はそれほど太くない縮れ麺で、濃い目のスープがよく絡み一層その個性的な味わいを強く感じさせてくれるよう。
最初こそ意外な味わいに驚いたものの、気付けば大汗を掻きつつあっという間に完食。これ、ラーメンライスにしたかったなぁ。メニューを見てもライスは無さそうでしたが、絶対ご飯に合う味。次行ったときに、出来てくれていないかなぁ。
弘前のソウルフードと名高い、中みそ。これで育ったら、きっと普通の味噌ラーメンでは物足りないんだろう。そんな個性たっぷりの旨さの余韻に浸りつつ、今宵も『スマイルホテル弘前』のご厚意により用意して頂いた椅子に腰掛け、暮れゆく空の移ろいを眺めます。
首を長くしつつ、ぼんやりとねぷたを待つ夕暮れのひととき。そんなじれったいような時間を味わい深くしてくれるのは、地元弘前の六花酒造の純米酒が満たされたワンカップ。描かれた津軽錦の艶やかな姿が、これから出逢うであろう金魚ねぷたへの熱をより一層高めます。
辛口の地酒をちびりちびりと飲っていると、遠くから近づく太鼓の響き。白鳥舞う青森県警のパトカーが姿を現せば、今宵の熱さはもうすぐそこに。
今夜も祭りの始まりを告げる、津軽情っ張り大太鼓。ねぷたの進行を指示する独特のリズムを、その巨体から空気を震わせんとばかりに響かせます。
ついに幕を開けた、今夏最後の僕の熱い夜。これから始まる目くるめく時間を予感させるように、かわいい金魚ねぷたが暮れゆく街を艶やかに駆け巡ります。
短い夏の到来への歓びを表す勇ましい鏡絵に、儚い夏への想いを漂わせる見送り絵。モノトーンで描かれた荘厳な龍の見送り絵は、夏にはしゃいでいるだけではいけないという自戒の念すら感じさせるよう。
その細部まで手間暇かけ彩られる、美しいねぷたたち。たか丸くんも白黒で描かれれば、かわいさの中にも漂う凛々しさが。
夜の街を黄金の輝きで染める、千手観音の組ねぷた。穏やかな表情と差し伸べられた幾多もの手で、数多くの人々を救うとされています。
見事な躍動感をもって描かれる、龍と虎の見送り絵。繊細かつ大胆に描かれたその姿には、灯される明かりに透かされてこその活力というものが宿ります。
勇壮なものや優美なもの、そして愛嬌あるものまでねぷたのもつ表情は様々。やってきたかわいい黒柴の組ねぷたには、首元に金魚ねぷたの鈴が光ります。
勇壮な武者絵が描かれる鏡絵。猛々しい馬に跨る武者は、光という力を授けられ一層その迫力を増すかのよう。
見送り絵には様々な題材が描かれますが、特に目を引くのが地元愛を感じさせる郷土の誇りを描いたもの。そそり立つ鯱の背には、津軽の地を守るように聳える岩木山。その荘厳な世界に彩りを添える、鮮やかに色づく紅葉。この暑さが過ぎ去る頃には、弘前は秋の錦に彩られることでしょう。
笛鉦太鼓の旋律に載せ、響き渡るヤーヤドー。その掛け声に導かれ夕暮れの街をゆく妖しい光の隊列を眺めていると、自分もどこか違う世界へと導かれてしまいそう。
あぁ、やっぱり今年も来てよかった。祭りの序盤ながら、明日はもうこの地を離れなければならないという切なさを感じてしまう。自分の胸を行き交う悲喜交じり合う感情は、まさにねぷたの表裏のよう。熱く、美しく、でもどことなく切なく。胸を焦がす津軽の夜祭は、更に熱気を帯びてゆくのでした。
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