赤倉温泉駅から夏の陽射しに灼かれつつ歩くこと約40分、これから2泊お世話になる『湯守の宿三之亟』に到着。4年前に味わった独特なあの湯を連泊で愉しめるなんて。そう考えるだけで、今からワクワクが止まりません。
大屋根が印象的な玄関棟でチェックインし、早速お部屋へ。あ、ここ、前回と同じ部屋だ。小国川沿いの角部屋には、明るい陽射しと共にせせらぎの声が差し込みます。
さっさと浴衣に着替え、お待ちかねの大浴場へ。江戸時代に手掘りされ、当時の姿を今に残しつつお湯を湛える大岩風呂。かつて川原であったその場所は大きな湯屋で覆われ、内湯であるにもかかわらず独特の野性味に溢れています。
湯船の底を見てみれば、独特なマーブル模様に彩られる天然の岩盤が。浴槽横の源泉からお湯が掛け流されるほか、底からも源泉が自噴しています。この浴槽は隣を流れる小国川よりも低い場所に位置し、その水圧により源泉が湧きだすのだそう。
全体的に深さがありますが、さらに一段低くなった部分が。湯かき穴と呼ばれるその部分は、ポンプなどない時代、掃除のために桶でお湯を繰り返し掬いだし削れてできたもの。自然と人と時間が造り上げた唯一無二の個性が、この浴場には詰まっています。
その独特な雰囲気を一層強めるのが、湯屋内に鎮座する巨大な岩盤。苔むすどころかシダが生え、植物園や温室のような景観を醸し出しています。これこそが、かつてここが川原であったことの生き証人。勝手に僕は、そう感じてしまう。
その岩盤の中腹、一段上がったところには打たせ湯と源泉を引いてきたと思われる手掘りの穴が。こんな浴場、どこを探してもここしかない。だいぶ前にテレビで目にし、一瞬で一目惚れしてしまったのです。
無色透明の、きれいなお湯が満たされる岩風呂。深めの浴槽に身を沈めてぼんやりすれば、身も心もお湯の温もりと世界観に満たされてゆくのを感じます。泉質は、カルシウム・ナトリウム-硫酸塩温泉。さらっとした浴感ですが、湯上りの温まり方は抜群です。
4年ぶりの独特な空気感を胸いっぱいに吸い込み、部屋へと戻り冷たいビールを。喉を下る刺激と苦み、耳を悦ばせる小国川のせせらぎの音。堪らない。これがあるから、頑張れる。
湯上りとビールの余韻に少しまどろんだところで、次なるお風呂へと向かいます。こちらは鍵をかけて貸し切りとして使えるひょうたん風呂。タイルが懐かしい小ぶりな浴槽に浸かれば、ざざんとお湯が溢れてゆくのが心地良い。
また泊まれて、良かった。湯上りの肌を撫でる川風に身を委ね、ぼんやりと眺める夕刻の小国川。前回は1泊でしたが、これが明日、明後日まで続くなんて。早くも連泊にして正解だったと確信してしまいます。
湯上りのひとときをのんびり過ごし、お腹もすいたところでお待ちかねの夕食の時間に。個室の夕食会場へと向かうと、食卓には美味しそうな品々が並んでいます。
そばの実や黒ごま豆腐、白和えといった小鉢の数々。これらをアテに地酒を傾ければ、自ずと食欲が一層湧いてきます。お刺身も山奥とは思えないほどきちんと美味しく、かぼちゃとなすの煮物もほっとするような手作りの美味しさ。
山形と言えばの芋煮は上品な味付けで、里芋やねぎに絡む牛の旨味が堪らない。和の献立に変化を与えるビーフシチューも柔らかく、デミグラスの味わいが地酒をまた違った旨さにしてくれます。
メインの豚しゃぶは柔らかく、ぽん酢の酸味が豚の脂の甘味をより引き立ててくれるよう。茶碗蒸しは夏らしく冷製にされており、載せられた梅肉の爽やかさと相まって喉に感じる清涼が心地良い。
手作り感ある美味しい品々に舌鼓を打ち、ふっくらご飯とお味噌汁で〆ることに。このお味噌汁、具には薄切りのなすときゅうりが入っています。さすがは猛暑の地山形、夏野菜の使い方が絶妙です。
あぁ、旨かった。満足、満足。郷土の味にお腹も心も満たされ、満腹を落ち着けたところで今宵の友を開けることに。まず選んだのは、酒田の菊勇が造る栄冠菊勇純米酒。すっきりと腹へと沁みる、辛口ながら飲みやすい旨い酒。
後はもう、お酒とお湯に酔う時間。地酒の火照りを感じたところで、夜の露天風呂へと向かいます。すぐそばには、さらさらと音を立てて流れる小国川。夜ともなれば風は涼しく、熱くなった肌をさらりと冷ましてくれるよう。
部屋へと戻り、次なるお酒を開けてみます。酒田駅のお菓子屋さん、清川屋で購入したオリジナルのお酒。庄内町余目の鯉川酒造が庄内米と月山の伏流水で醸した特別純米酒は、嫌な癖がなくすっと入っていくようなきれいな美味しさ。
窓からは、絶えず聞こえる小国川のせせらぎの音。気が向けば岩風呂へと向かい、部屋へと戻れば川音つまみに酒を飲む。明日もこんな贅沢に浸れるなんて。早くも連泊の魔力にやられ、夢見心地で夜を過ごすのでした。
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