石巻から高校時代の記憶に触れつつ揺られること約50分、仙石線は松島海岸駅に到着。日本三景のひとつである松島を見ようと、大勢の人々で賑わいます。
駅から活気あるお土産屋さんの並ぶ通りを抜け歩くこと10分足らず、松島を見渡せる広場に到着。東の松島、西の象潟。つい数日前に訪れた象潟のかつての姿を、海原輝くこの眺めに重ねてみます。
胸いっぱいに汐風を吸い込んだところで、五大堂にお参りを。浮かぶ小島に建つ五大堂へは、床板に隙間の空いた透かし橋を渡って向かいます。下を見れば、思わず吸い込まれそうな感覚が。その独特な造りには、自分の足元をしっかりと見つめなさい、という意味があるのだとか。
赤い欄干の透かし橋を渡り切り、まずは穏やかに煌めく松島湾の絶景を。遠く遠く、どこまでも連なる無数の小島。そのそれぞれに松を頂く独特の姿は、海に浮かぶ盆栽のよう。
小島に集う人々の波が収まったところで、3年ぶりのお参りを。長きに渡り風雪や災害に耐え続けてきたお堂に手を合わせ、再びこうして訪れることのできる幸せを噛みしめます。
四度目となる松島、今回初めて気づいたことが。渋い佇まいのお堂の周囲には、躍動感あふれる十二支の彫刻が。自分の干支に再訪の願いを託し、五大堂を後にします。
実は今日のお昼を軽くしたのにはちょっとした理由が。五大堂のすぐ近くに位置する『げんぞう』で、今回もかきを食べてやろうと企んでいたのです。
カウンターで注文し、海を眺めながら料理を待つひととき。松の木立越しに見える入江の風情が、これから味わうかきと酒を一層美味しくしてくれるよう。
フライやチャウダー、チゲなど様々なかき料理が並ぶメニュー。本当ならばあれやこれやと食べたかったのですが、船の最終便まで時間もなかったため、焼き牡蠣と伯楽星のもっきりセットを選びました。
もう説明はいらないでしょう。見ただけでもわかる、至極の旨さ。夏の陽射しに輝くかきは、つまめば弾けてしまいそうなほどにぶりんぶりんの詰まり方。一口頬張れば、眼前の海がそのまま口へと流れ込んできたかのような幸福感。そしてそれを旨い伯楽星で流せば・・・。あぁ、この時間が永遠に続いてほしい・・・。
口中に溢れる濃厚な海の余韻に浸りつつ、桟橋に向かい遊覧船へと乗り込みます。今回乗船する『丸文松島汽船』は、HPからの事前予約がおすすめ。予約しておけば並ぶ時間も短く済み、更には運賃も割引に。
乗船した第三芭蕉丸は、汽笛一声高らかに松島港を出港。器用に船体を回し、松島の街並みに背を向け海原へと進みます。エンジン音が高くなったかと思えば陸はどんどんと離れ、小さくなりゆく五大堂を見つめます。
抜けるような夏空と、その青さを映す海。浅い湾内には無数の島々が浮かび、丸いものから平たいものまで、大小様々な趣で見る者の眼を悦ばせます。
やっぱり船旅は、気持ちが良い。デッキで全身に海風と夏の陽射しを浴びれば、自ずと心は空っぽに。機関の振動に身を任せ、のんびり眺める過ぎゆく小島。午後の日に煌めく海が、その光景を黄金色へと染めあげるよう。
街から離れ、のんびりと波に揺られる遊覧船。そのリズムに心身を委ねていると、次から次へと現れる奇景の数々。湾に浮かぶ島にはそれぞれ名前がついていますが、自分なりの見方をするのも楽しみのひとつ。僕にはこの島、E5系はやぶさに見えて仕方がない。
三方を陸地に囲まれる松島湾。近くの小島が減ってきたかと思えば、遠くにずらりと連なる霞む島影。日本三景松島は、陸地からだけではもったいない。この爽快かつ密度の濃い眺めは、船上ならではのもの。
沖へと進むと、いくつも見える養殖筏。リアス式ならではの地形が栄養豊富な海を創り、その海に育まれる牡蠣や海苔。いつも旨い旨いと味わっている食材の故郷を、船はゆっくりと進みます。
きれいに連なる海蝕洞が印象的な、鐘島。洞穴にぶつかる波の音が響き渡ったことから、この名が付いたそう。今日はその洞穴の先まで、はっきりくっきり見通すことができました。
船は右へと大きく方向転換し、灯台が印象的な地蔵島のすぐ脇を通ります。白亜の灯台もさることながら、岩盤の白さもまた美しい。松島の美しさの理由は、青々と茂る松を引き立てる島の白さなのかもしれない。
地蔵島を過ぎれば、もうそこは塩釜湾。日本でも有数の漁港として名高い港町へと、船は名残惜しそうにゆっくりと近づきます。
ふと横を見れば、真新しい立派な魚市場が。前回訪れた時にはまだ完成していなかった、この建物。白く輝く大きな建物に思わず目を細め、自分の中に色々な想いが駆け巡ります。
松島から爽快な船旅を愉しむこと50分、まもなく塩釜港へと接岸。今日も美しい姿を魅せてくれた松島に別れを告げ、陸へと降り立ちます。
東の松島、西の象潟。そう称される東北きっての名勝を、この旅で一度に味わえるなんて。幸運なことにどちらも晴天に恵まれ、その鮮烈な美しさは強い印影となり胸へと焼き付くのでした。
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