二度目となる煮干しラーメンの旨さに衝撃を受け、その余韻を残しつつ駅前のアウガ駐車場から宿の無料送迎バスに乗車。これから向かうは、豪雪の地酸ヶ湯温泉。約2年ぶりとなる再会のときを目前に控え、弥が上にも心は昂ります。
バスは雨降る青森の市街地を抜け、八甲田の懐へと針路をとります。途中雲谷、萱野高原と標高を上げ、段々と白く染まりゆく車窓。例年より雪が少ないとはいえ、一面の銀世界に冬旅の風情を感じます。
白銀の車窓を楽しむこと約1時間、2年ぶり3度目の訪問となる『酸ヶ湯温泉旅館』に到着。時節柄人は少ないかと思いきや、多くの湯治やスキー客で賑わっています。
前回は湯治棟に泊まりましたが、今回は旅館棟での宿泊。古き良き木造建築の佇まいをみせる七号館2階の角部屋が、これから2泊過ごす夢の舞台。窓から溢れる冬の白さに、心はすっかり冬色に。
早速浴衣に着替え、2年ぶりの対面となる千人風呂へ。青森のヒバで造られた巨大な浴場にはもうもうと湯けむりが立ちこめ、独特の風情が湯屋を包みます。
広々とした浴場には4つの異なる源泉が導かれ、もちろんどれも掛け流し。まずは掛け湯である冷の湯で体を慣らし、メインの浴槽である熱の湯へ。
源泉の直上に設えられた巨大なヒバ造りの浴槽を満たす、底から泡とともに生まれくる山の恵み。適温の湯は肌あたりがよく、じんわりと全身を包み込んでくれるような優しい浴感。
熱の湯と聞くと熱いお湯を想像しますが、その由来は温まりの良さ、湯冷めのしにくさから来るそう。実際湯上りには、いつまでもぽかぽかとした心地よい温もりが体に宿ります。
奥から音を轟かせているのは、打たせ湯である湯滝。源泉が勢いよく落とされ、肩や腰に当てるとその温度や衝撃が心地よく刺激してくれます。
その隣に位置する大きな湯船が、四分六分の湯。こちらのほうが熱の湯より若干温度が高めで、ちょっとした肌への刺激を感じるさっぱりとした浴感。ですが温まり方は熱の湯の方が強く、温度だけではない温泉の不思議な違いを体感します。
白い湯けむりに包まれ、白濁の湯に身を沈める至極のひととき。湯上りの冷たいビールを喉へと流しこみ、少々うたた寝をしてもう一つの浴場である玉の湯へ。そんな贅沢な自堕落を噛みしめているとあっという間に夕暮れが訪れ、気付けばもう夕食の時間に。
会場である大広間へと向かうと、テーブルには美味しそうな品々がずらりと並びます。まずは前菜から。鮟肝煮こごりはつるりとした食感の後に旨味とコクが広がり、蟹錦糸寿司はほんのり甘い酢飯と玉子が地酒の辛さにピッタリ。カレイの奉書焼には胡麻味噌が塗られ、コクと香りがほくほくとした身に纏います。
続いてはお刺身を。津軽海峡で養殖されたという海峡サーモンは身の締まりと上品な脂が美味しく、青森といえばの帆立は昆布〆にされ凝縮された甘味と旨味がたまりません。鮪も脂がのっており、山奥の宿でこんなお刺身が食べられるのは嬉しい限り。
そのお隣は、コリコリとした強い歯ごたえが美味しい生子の菊花おろし。お鍋は八戸名物のせんべい汁で、美味しいおだしを程よく吸った南部せんべいのもっちりとした食感が地酒を誘います。
左上の陶板は、鰤の生姜焼き。適度に脂ののったぶりは嫌なパサパサ感はなく、爽やかな風味の生姜だれがよく絡みます。
緑の大きな葉っぱに包まれているのは、鶏肉の朴葉焼き。ふんわりと火の通された柔らかい鶏と、ホクホク甘いじゃがいも。それらの具材にコクのある味噌だれが絡み、朴葉の爽やかさが全体を包みます。
青森の美味しいご飯とおつゆ、みずみずしさとシャキッとした食感の残るアップルパイで締め、お腹はもうパンパンに。重たいお腹を抱え、大満足で部屋へと戻ります。
雪に覆われた山の宿に流れる、静かな時間。あとはもう、お酒とお湯に酔うばかり。そんな夜のお供にと選んだのは、板柳は竹浪酒造店の岩木正宗七郎兵衛純米酒。湯呑に注いでみるとその黄色さにまず驚き。口に含めば甘みと酸味の後に強い酒感が広がり、これまで飲んだことのないような独特の旨さ。
個性豊かな地酒に酔い、気が向けば幻想的な千人風呂へ。全身を包む酸ヶ湯の温もりと、鼻をくすぐる硫黄の香り。肌を撫でる源泉と気泡の感触に、いつまでもこんな夜が続けばと願うのでした。
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