夏の火祭りにこころ灼かれ、気づけばあっという間にもうお昼どき。青森到着時には煮干しラーメンを食べたので、今日はもうひとつの大好物であるあのラーメンを食べると決めていました。今回は『味の札幌浅利』へとお邪魔します。
冷たい瓶ビールを味わいつつ待つことしばし、お待ちかねの味噌カレー牛乳ラーメンが到着。味の札幌大西の方へは何度か行っていますが、こちらのお店は初めて。どんな味の違いがあるのかと、弥が上にも期待は膨らみます。
まずはスープをひと口。白さ際立つその見た目通り、牛乳感をしっかりと感じるというのが第一印象。ベースのスープはあっさり系で、カレーの風味も若干控えめ。ですが後味には、しっかりとラーメンらしい風味とカレーの余韻が残ります。
麺は僕の好きな黄色い縮れ麺。噛めばぷりぷりと歯ごたえが心地よく、まろやかなスープを程よく口へと運んできてくれます。特に溶けたバターの下の麺を手繰れば、スープのミルク感と相まってよりまろやかな味わいに。
いやぁ、旨かった。これまで食べ慣れた大西はどちらかといえばカレーが際立つ印象ですが、こちらは牛乳が主役といった雰囲気。同じ青森の味噌カレー牛乳ラーメンでも、こんなに味の方向性が違うとは。青森に来たら、また新しい悩みが増えそうです。
牛乳のまろやかな余韻に包まれつつ歩く、海沿いのデッキ。どんよりとした冬空の下で、未だ函館を見つめ浮かぶ青函連絡船八甲田丸。この旅最後の海峡の女王へのご挨拶を終え、次なる目的地へと進みます。
何度も下から見上げつつも、初めて通る青森ベイブリッジ。途中、もしかしたら顔を見せてくれるかもと振り返りましたが、八甲田山は分厚い雲の中。山中に佇む酸ヶ湯に別れを告げるとともに、再訪を胸に誓います。
青森のランドマークともいえる、青森ベイブリッジ。大きな吊り橋は、広い青森駅構内もひと跨ぎ。かつてはここに、幾多もの列車が停車していた。本州から北へと向かう人々を吐き出す夜行列車に、物資を積んだ貨車。その賑わいの欠片すら、もうこの光景からは感じられない。今はただ、2両編成が佇むのみ。
初めて歩く、青森駅の西側。ビルの建ち並ぶ東側とは違い、人々の生活感が間近に感じられる普通の住宅街。鉄道という帯を境にこれほど街並みが変わるのかと驚きつつアスパムから歩くこと約20分、『青森市森林博物館』に到着。
僕がここへとやってきたのは、この建物を見たかったから。かつて営林局の庁舎として使われてきた木造の洋館は、築110年以上。長きに渡り風雪に耐えてきたという時の重みが、優美な姿の中にもしっかりと刻み込まれているかのよう。
中へと入れば、現役当時の面影を残す重厚な空気感。階段の黒光りした欄干からは、いかにこの建物が大切にされてきたかが伝わるよう。
館内には森林や木材にまつわる幾多もの展示が繰り広げられ、思わずそのひとつひとつに見入ってしまう。中には貴重な津軽森林鉄道の展示もあり、これはぜひ実際に訪れて見て頂きたいと思うほど。
数々の展示に青森の林業を学びつつ、建物中央に位置する旧営林局長室へ。明治から昭和まで、いかに林業という産業が繁栄していたか。この重厚な局長室には、全国の林業に携わる人々の重責が詰まっているかのよう。
かつてここでは、植林や伐採の計画、そして林鉄の路線計画なども話し合われていたのかもしれない。物心ついたころから鉄筋コンクリートの家に住み、輸入材が当たり前となった時代しか知らない僕。白黒の林鉄写真を見るたびに、得も言われぬ切なさが胸に湧くばかり。
今は学習室として使われる、広々とした部屋。ずらりと並ぶ机に山積みにされた書類、充満するたばこの煙や電話の音。そんな昭和な事務所の光景が目に浮かびます。
きっと昔は、この廊下を大勢の職員が行きかっていたはず。明治から70年以上事務所として使われてきたこの建物には、営林局時代の活気と職責が今でも沁みついているよう。
本州の最北端に位置する、青森県。この優美な洋館が庁舎として建てられるべき理由が、なんとなく分かった気がする。かつての林業の賑わいを教えてくれる展示の数々に心打たれ、洋館を後にします。
重厚な木造洋館とともに、僕をここへと誘ったのがこの林鉄車輌。白黒写真の中だけの存在であった林鉄が、いま眼前にあるという悦び。昔はこんな豆汽車が、日本中に走っていたのです。
まず驚くのが、そのサイズ感。車両の小ささもさることながら、レールの細さや路面と車両の近さにびっくり。ただでさえ不安定な谷や山腹を走っていた林鉄、小さな石ころ一つでも脱線しそうなか弱さを感じます。
小ぶりながらも、しっかりとした造りの客車。整然と並ぶ窓の上下に走るウインドウシル、ヘッダー。車体には接合部材であるリベットが並び、国鉄の客車に負けず劣らずの機能美が漂います。
このあすなろ号は、津軽森林鉄道で使われていた幹部視察用の言わば特別車。車内には分厚いクッションの転換クロスシートが並び、当時の国鉄2等車に匹敵するほどの豪華さなのではと思うほど。
客車の塗り分けは、当時一世を風靡した湘南色。こんな小さいハイカラ列車が、津軽半島の深い森を走っていた。白黒の写真からは想像できない具体的なイメージが、実物からはしっかりと伝わります。
連結器は、普通鉄道では見かけない特殊な形状。山腹のくねくねとした路線を、これを軋ませながら走ってゆく。長編成のへびのような林鉄の姿、一度は見てみたかった。
山で切り出された木材を、貯木場まで運ぶ。自動車や林道が一般的ではなかった時代、鉄道こそが大量輸送の主役だった。こんな木材を満載した車両が、いくつも連なり山を下る。その事実を想像するだけで、胸が熱くなってしまう。
大事な木材を支える、小さな台車。おもちゃのような鉄道でも、背負った使命は重かった。曲線や勾配に弱い鉄道を、森林に広げてゆく。その価値があるほど、日本の森は豊かだった。
当初は洋館と林鉄見たさに訪れた、青森市森林博物館。想像以上の密度の濃さに、思わず長い時間を過ごしていた。僕が生まれる少し前まで、現役で走っていたであろう森林鉄道。それを引かせるほどの林業の大切さに触れ、往時の光景に思いを馳せるのでした。
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