岩手の秘湯で何想う ~節目の鄙び旅 3日目 ①~

朝もやにけむる初夏の夏油温泉

岩手の山奥で迎える、幻想的な朝。夏油の山には濃い朝もやが掛かっていました。昨晩は日付が変わるずっと前に寝付いたため、すっきりとした目覚め。

外へ出て思いっきり深呼吸すれば、心地良い冷気と共にこの朝もやも体に入って来そう。そんな山の朝独特の気持ちのよい空気に包まれています。

夏油温泉朝食

爽やかな空気の中入る露天風呂は、まさに朝風呂の醍醐味そのもの。無駄な夜更かしをしない分、朝風呂もいつも以上に気持ちの良いものとなります。

そしてお待ち兼ねの朝食の時間。鮭やたらこ、お浸しに温泉卵など、これぞ温泉の朝ごはん!というおかずが並びます。

中には朝からお刺身や鉄板焼きなど豪勢な料理が並ぶお宿もありますが、僕にはこのくらいのホッとする内容や量が丁度良い。シンプルだけど手間が掛かるので自分では絶対に作れない、そんな理想的な朝ごはん。

起きて朝風呂を浴び、上がったらこんなご飯が用意されている。なんと贅沢なことでしょう。僕は温泉に泊まってこんな和朝食に出会うたびに、あぁ日本人で良かった・・・。などとしみじみ思ってしまうのです。

夏油温泉に飾られた夏油森林軌道写真

朝食で満たされたお腹を落ち着かせ、夏油最後の湯を楽しむこととします。手を伸ばせば触れられそうな距離に川が流れる露天風呂は、まさに自然との一体感を感じられる最高のロケーション。

昨日からほぼ1日夏油の湯を堪能してきましたが、これが最後と思うとやはり名残惜しくなってしまいます。こんな温泉との出会いがあるからこそ、秘湯の旅は止められません。

時刻はあっという間にチェックアウトの時間に。帰りは宿の方に車で送っていただきます。駅までは自家用送迎車でも45分ほど掛かりますが、その道中宿の方やもう一組のお客さんとお話を楽しみます。

夏油温泉に飾られた夏油森林鉄道写真

夏油温泉に車道が通じたのは昭和40年代に入ってから。それまでは北上から延々森林軌道(木材運搬用の小規模鉄道)に揺られ、夏油川の谷底で降ろされてからは荷物は馬に、宿泊客は自分の足で2時間近くも急な山道を登っていたそうです。

その森林軌道の写真が宿の廊下に飾られていました。馬や当時の湯治客の様子も残されており、僕の生まれるたった10年ちょっと前の光景とは思えませんでした。その頃の写真を見ると、今よりずっと不便なはずなのに、みんな何故だか元気で何か満たされているような表情で写っています。

きっとそれは、写真という切り取られたイメージでしか見たことのない僕の、勝手な回顧主義によるものであることは確かなのですが、今の時代を同じように写したとして、果たして同じような活き活きとした表情を感じ取ることはできるでしょうか。少なくとも、僕にはその自信はありません。

きっと、昔の世の中には、今の時代に無い活気があったのでしょう。それが写真を通してにじみ出て来るのです。

宿の方も、昔の方が夏油は活気があったとおっしゃっていました。医療の発達や余暇の過ごし方が多様化した今、わざわざ秘湯へ湯治に訪れる必要性も無くなってきているのでしょう。ですが、だからこそ僕のような車すら持たない1泊客でも訪れることができるようになりました。

そんな現在でも、やはり定期的に湯治に訪れる方は多いようで、今の時期、本来なら三陸の漁師さんが湯治で訪れているはずとのこと。こんな離れた場所にも、震災・津波は影を落としているのです。

実際、昨夜の宿泊客は僕を含めて7組だけ。賑わっている夏油の様子を写真で見ていただけに、1日も早くこの夏油にもお客さんが戻り、活気が溢れて欲しいものだと思いました。

東北本線701系

存在を知って以来、憧れてきた夏油温泉。その地で得た期待以上の貴重な体験を胸に、北上駅を後にします。向かうは思い出の地、花巻温泉郷。衝撃的な出会いを果たした「あの」温泉との再開に胸を膨らませ、揺れる列車に身を委ねます。

初夏の花巻駅

各駅停車の旅もあっという間、北上駅から10分で花巻駅に到着。様々な温泉が点在する花巻温泉郷の玄関口です。

岩手県交通新鉛温泉行き

午後のチェックイン時間帯には、各方面の温泉に向けて観光協会の運行する無料送迎バスが走るため、駅からのアクセスはらくらく。

ですが、今回の目的はあくまでも温泉。今夜の宿にチェックインする前に1軒、気になっている温泉宿に立ち寄り入浴することにします。

花巻駅前より、『岩手県交通』の新鉛温泉行に乗車。目指すは大沢温泉。宿泊地として選ぶかどうか最後まで悩んだ宿のひとつ。その思いを諦めきれず、川沿いの大きな露天を立ち寄り湯で楽しむこととします。

岩手の秘湯で何想う~節目の鄙び旅~
新緑の夏油湯上がりに最高のビールを
2011.6 宮城/岩手
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