穏やかな気持ちで迎える爽やかな朝。まだ明けきらぬ5時台にすっきりと目が覚めたので、そのまま起きてしまうことに。
朝のぴりりと引き締まった空気の中入る露天風呂は格別。この瞬間があるからこそ、やはり温泉は泊まりに限ると思えてしまいます。
そんな朝風呂を二度ほど楽しんでも、まだ朝食の時間までは余裕が。やっぱり旅先での早起きは三文以上の得。この優雅なひとときを味わってしまうとクセになります。
朝の時間をのんびりと楽しみ、お腹も空いたところで朝食の時間に。食卓には美味しそうな品々が並びます。
まず目を引くのがせいろに入った蒸し野菜。小玉ねぎやアスパラ、にんじんにカリフラワーなど、彩りもよくボリュームも満点。フレンチ系のドレッシングにつけて食べるのですが、ちょっとした和の風味が心地良く、野菜の甘味をたっぷりと感じさせてくれます。
左上には、ピリ辛のしいたけやおかず味噌、わさび漬けや昆布といったご飯の供が6品も。それぞれがとても美味しく、ご飯がどんどん進みます。
その他にも湯豆腐や温泉卵、パリパリ感が嬉しい大根漬けなど、味も種類も大満足な朝食。でもふと考えると、動物性のものが温泉卵とかまぼこしかない。それなのにこの充実感、満足感。こんな感じの朝食は初めて。なんだか体の中も掃除してくれそうな、穏やかな朝食です。
ご飯をおかわりしお腹一杯食べたにもかかわらず、しばらくすればお腹も落ち着きます。あのヘルシーさは飲んで食べてを繰り返す旅先には嬉しいかも。
お腹もこなれたところで、再び部屋とお湯との往復を開始。チェックアウト時間を過ぎた庭園には人影はなく、この青空と銀世界をひとり占め。
この穏やかな午前を味わうべく、まずは玉子湯に入ることに。そこへと渡る橋上からは、雪に埋もれた源泉小屋が見えています。高湯の源泉は全て自噴で、全部の旅館で源泉掛け流し。ここ玉子湯も、自噴自然流下の掛け流しにこだわっています。
誰もいない、静けさに包まれた歴史ある湯小屋。その小さい浴槽には生まれたてそのままの源泉が滔々と湛えられ、入る者の体を自然の力で包み込みます。
高湯の恵みに抱かれつつ外へと目をやれば、そこに聳える無垢の雪壁と、ちらりと覗く冬の青空。あぁ~、やっぱり来てよかったと、この旅何度目にもなる幸せのため息が漏れてしまいます。
渋い空間での湯浴みを味わい、連泊ならではの楽しみである午前のビールを。喉を通る冷たさを窓の外の雪景色に重ね、冬という季節の美しさを心の底から味わいます。
湯浴みと読書、ビールを楽しんでいるうちに、気付けばお昼の時間に。ここ玉子湯では、連泊の際朝食時にお願いしておけば、昼食も用意してくれます。
そばやうどん、丼ものがあるなかで、今回選んだのは温かい山菜そば。麺も山菜も美味しく、だしも丁度良い塩梅。食事処の展望もよく、冬晴れの雪山を見ながらの昼食は爽快そのもの。
連泊の醍醐味であるゆったり、まったりと流れる時間を愉しむ午後。気が向けばいつでもお湯を愉しめる。こんな幸せなことがあるでしょうか。
二つある露天風呂のうち、茅葺小屋の向かって左にある天翔の湯が今日の男湯。午後の湯浴みをここから始めることとします。
こちらには大きな湯船がひとつ。そこに源泉がたっぷりと勢いよく流されています。高湯温泉の源泉は日によって色が変わるようで、昨日は薄濁りであったのが、今日はこんな鮮やかな青磁色に。まるで雪と冬晴れの空がそのままお湯に溶け込んだかのような美しさ。
背後にそびえる荒々しい岩壁と、それにたっぷりと積もる雪。シルキーなお湯に包まれながら眺めるその景色は、この時期でしか味わえない特別なもの。新緑も紅葉も捨てがたい。でもやっぱり露天は、雪見かな。
連泊最高!やることといえば、お湯に浸かって本を読むだけ。そして人をダメにする昼酒も。この上なく幸せな連泊の午後に華を添えるのは、喜多方は小原酒造の蔵粋(クラシック)ワンカップ。カップごとにさまざまな作曲家が描かれ、そのインパクトが目をひきます。
去年の秋旅で外観だけ眺めた小原酒造。今回はその味わいも確かめてみることに。だいぶ前に飲んだときの印象の通り、トゲやクセの無い穏やかな上品さ。これはやはりクラシックを聞かせて造っているからなのでしょうか。
静かに流れる怠惰な時間。本とお湯とワンカップを味わっていると、気がつけば外はもうすっかり夜に。だめだ、速すぎる。楽しい時間の流れは速すぎる。ここは次回も絶対に連泊だ。もうすっかりこの宿の虜です。
丁度よくお腹も減ったところで夕食の時間に。テーブルには昨日とはまた違ったお料理が並びます。お刺身はまぐろに甘エビ、サーモン。このサーモンが程よく炙られ、風味と食感がよくなっています。
小鉢はカタクリの花のおひたし。初めて食べる食材ですが、強いシャキシャキ感とほろ苦さがとても美味しい。これは地酒によく合います。
続いて熱々の二品が。右は海老の入った玉子豆腐のようなお饅頭に、桜えびのあんが掛かったもの。ふんわりとした食感と海老の風味がよく、体にじんわりと染み入るような美味しさ。
天ぷらは山の宿で嬉しい山菜で、今日も揚げたてサクサク。こごみやふきのとうの香りとちょっとした苦味が、早い春を感じさせます。
コンロではお鍋がぐつぐつ煮えています。今日はたっぷりの山菜やたけのこ、きのこが入ったしょう油ベースのもの。肉団子やかにから出た旨味が、山の食材に浸みています。
続いては細竹の味噌漬けと焼き物が運ばれてきます。細竹はほんのりと味噌の風味と塩分が入り、それでいて竹の持つ旨味や風味を全く邪魔しないもの。姫竹、根曲がり竹好きの僕にとってはこの上ないご馳走。地酒がススムくん♪
この焼き物もとても美味しかったのですが、食材等は忘れてしまいました。というのも、隣のご婦人たちとお話ししながら食べていたため、すっかりおしゃべりに夢中に。色々な温泉に行かれているようで、おすすめの温泉等を聞いて楽しい時間を過ごしました。旅先でのこんな出会いも、ひとり旅のスパイスのひとつ。
楽しく美味しい夕食を味わい、パンパンになったお腹を抱えて部屋へと戻ります。本当にこのお宿はお料理が美味しい。お湯に風情に料理と三拍子揃っている。これはまた来ねばなるまい、それも連泊で。
憧れ続けて早十年以上。初の玉子湯で過ごす時間はあまりにも素敵すぎて、連泊してもあっという間。そんな玉子湯での最後の夜を味わおうと、駅で購入した郡山地酒探訪という純米酒3本組を開けることに。
雪小町、藤乃井、三春駒。郡山と三春のお酒を1合ずつ飲み比べ。それぞれ違う味わいに、日本酒の多様さ、奥深さに思いを馳せるひととき。たまにはこんな飲み方もおもしろいかもしれない。
あっという間の二連泊。今夜もこうして夜は更けてゆく。気が向いたらお風呂へと向かい、満天の星空へと昇る湯けむりを眺めつつ、お湯を五感の全てで味わう贅沢。
この時間が永遠ならば。叶うことなきこんな願いが浮かぶ時は、決まって充実した旅であるという証。本当に来て良かった。今宵もこうして満ち足りた幸福に包まれ、静かに眠りに就くのでした。
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