玉取崎で最後の八重山の青さを浴び、心に焼き付く余韻に浸りつつ南ぬ島石垣空港へと戻ります。7日前、ここに降り立ったのがつい昨日のことのように思われる。7泊8日とこれまでで一番長い滞在でしたが、そのことが俄かに信じがたいほどあっという間に過ぎてしまった。
シーサー君、今年も本当に良い夏でした。でも、いつもとはちょっと違う状況の中、何となくまた新たな一面に触れられたような気がする。この滞在は、旅しているというより、暮らしているようだった。
いつもの賑やかさはどこへやら、行きたいお店も休業中。それでも、ジューシーおにぎり片手に海を愛でるだけでもう充分。例年にない穏やかな空気感に心の底から満たされ、僕の八重山への想いは高まるばかり。
いつかはここで、暮らしてみたい。それは4年前、初めてこの地に触れて感じたこと。その直感が、訪れる度に確かな根を心へと張ってゆく。そのいつかは叶うかすら分からないけれど、初めて訪れた4年前とは何もかも変わっている自分に、今はただ純粋に期待したい。
石垣島で暮らすには、少なくとも僕にとっては生き方を少なからず変える必要がある。環境を変えるために生き方を変えるのか、環境が変われば自ずと変わるのか。その答えが見つかるまでは、生まれ故郷で頑張ってみよう。
よし、また必ずここに戻ってくる!そんな決意に近い気持ちを抱き、飛行機へと搭乗。小さな737はゆっくりと進み、滑走路の始端に到着。先ほどまで肉眼で触れていた青さを、高鳴るエンジン音に揺さぶられながら分厚いアクリル越しに眺めます。
飛行機は一気に加速し、あっという間に離陸。あぁ、石垣島から離れてしまった。独特の浮遊感に身を任せつつ、眼下に小さくなりゆく島に別れを告げます。
南向きに離陸したときにだけくれる、石垣島からの最後の贈り物。大きく旋回する機窓から溢れ出す、宝のような島の美しさ。島を守るように広がる珊瑚礁は、みんさー織りの帯のよう。
上昇を続ける飛行機、どんどんと小さくなりゆく島影。この島で過ごした8日間をなぞるかのように、その姿を必死で追います。すると先ほどまでいた玉取崎が。次があると信じていても、やっぱりこの瞬間は堪らなく寂しい。
細く長く続いていた島影も、ついにここで終わり。8日分、いや、間違いなくそれを遥かに超える感動をお土産に、平久保崎を見送ります。
八重山の余韻を載せた空の旅もあっという間、那覇を目指し降下を続ける飛行機。本島の大きさと賑わいが機窓を占める割合が増えたかと思えば、意を決したように飛行機は那覇空港へと着陸します。
帰りも飛行機は減便中。東京までの乗り継ぎ便に時間があったので、那覇空港で早めの夕食をとることに。最後の沖縄グルメにと選んだのは、ずらりと並ぶ郷土料理の写真が目を引く『天龍』。
ラストオリオンの苦みを旅の終わりの感傷に重ねていると、お待ちかねの沖縄そば定食が到着。単品のおそばもありますが、定食にすると小鉢やジューシーが付いてきます。
まずは沖縄そばから。きらきらと小さな油の浮くスープは、その見た目通り豚の旨味を感じるしっかり目の味わい。それが太めの白い麺にしっかり絡み、うどんともラーメンとも違う麺の旨さを引き出します。
ジューシーも豚の味わいがしっかりと染みており、コーレーグースを垂らしたスープとの相性も抜群。にんじんしりやもずく、菜っ葉のナムルといった小鉢も美味しく、オリオンビールと共に最後の沖縄の味を噛みしめます。
那覇で沖縄そばを食べるのはこれで三度目。首里そばと空港のお店しか訪れていませんが、八重山そばとは違う食べ物だと都度実感。同じくジューシーの味の違いと共に、沖縄の豊かな地域性を感じます。
直前まで、来ることができるかどうかという状況だった今年の八重山。色々とありすぎた2020年。そこで見て触れて感じた全てのものは、僕にとって一生忘れられない大切な想い出。
人の少ない石垣島や竹富島、初めて訪れた最南端の波照間島。そして何より記憶に残るのが、それぞれの海で染まった八重山ブルー。今年の夏は、総じて言えばみんさー色。空も青、海も碧く、陸もあお。総天然色の豊かなあおさが、2020年の八重山には宿っていた。
奇跡的なタイミングで訪れることができただけでも充分なのに、これまでにないほどの青さで僕を満たしてくれた大好きな地、八重山。今年限りの静けさの中過ごした8日間は、まるで暮らしの一部のような心地よさだった。
また来年も、その次の年も、ずっとずっと触れていたい。そう思える土地と出会うことこそが旅の醍醐味であり、旅を趣味としてもつ者としてのかけがえのない幸せ。今は自由に旅することが困難でも、この青さがずっと僕を待ってくれていると信じたい。
再び旅できる日が来ることを、そして願う「いつか」が叶うことを信じ、輝く西日にも似た火を心の奥に灯すのでした。
コメント