北東北の西半分をぐるりと巡ったこの旅も、もうすぐ終わり。秋田を発つまで3時間と少しを残すばかりになりました。何度旅をしても、この去り際というものは切ないものです。
そんなちょっとした感傷に浸りながら、名残を惜しむべく秋田の旨いもの、旨い酒を堪能することとします。寝台列車の旅は、出発ぎりぎりまで満喫できるのもいいところ。
今回お邪魔したのは、秋田駅から程近い『心海』。漁師の息子さんのお店ということで、新鮮なお魚に期待が膨らみます。
席に着きビールを注文すると、塩辛や小魚の佃煮など、5品ほどが並ぶお通しが出てきます。もうそれだけでもビールが進んでしまいます。
ビールを飲み干し、そろそろ地酒に切り替えようかな、というところで注文したのは、秋田名物ハタハタを使ったなれ寿司、ハタハタ寿司。
僕は北海道の飯寿司が大好物なので、もちろんこれも大好き。北海道で食べる、鰊やほっけ、紅鮭などの飯寿司よりもクセがないので、これならなれ寿司ビギナーでも食べられそう。
程よく締まったハタハタと、人参、生姜を一緒につまみ、わさびをちょこんと載せしょう油に付けて頂きます。
ひと噛みすれば、麹の心地よい甘酸っぱさが広がり、噛むほどにハタハタから淡白ながらしみじみとした旨味が出てきます。時折感じる生姜や人参の食感と風味がいい刺激となり、次から次へと食べたくなります。
ハタハタ寿司と地酒の絶妙なコンビネーションを楽しんでいると、注文したサザエのお刺身がやってきました。
こちらは男鹿から直送とのことで、その日の仕入れによっても変動するでしょうが、この日はなんと2個で500円。これは破格値です。
見るからに歯ごたえの良さそうな身をコリッと噛めば、鼻まで磯の香りが抜けてきます。添えられた肝のお刺身は、苦味や臭みが無く、これまたお酒にぴったり。
続いて注文したのは、カサゴの塩焼き。小ぶりですが1人で食べるには丁度良い量で、お値段もその分お手頃。
箸を入れると、パリッとした皮の下にふっくらとした身がぎっしり。絶妙な焼き加減によりふっくらプリプリ、もちもちとした食感で、適度な塩加減が旨味をより引き立てています。
あまりの身の美味しさに、新鮮さを確信した僕は、珍しく目玉を食べてみました。濃い味で煮付けた目玉は食べられるのですが、焼き魚の目玉はちょっと苦手。
そんな僕でももっと食べたい!と思えるほどの美味しさ。全く臭みは無く、旨味の詰まったゼラチン質が口の中でさっと溶けていきます。
ここまで新鮮なお魚尽くしでしたが、秋田で忘れてはいけないのが、比内地鶏。定番の焼き鳥や唐揚げもいいですが、今回はよりお酒のつまみとして合いそうな、鶏皮の唐揚げにしてみました。
出てきたお皿を見ると結構なボリュームがあり、1人で食べきれるか心配になりましたが、そんなことは杞憂に終わりました。
よくある居酒屋の鶏皮にありがちな、嫌な脂っぽさは全く無く、皮の旨味だけを感じられます。これは下処理がいいのか、比内地鶏だからなのか、それとも両方なのでしょうか。今まで食べた鶏皮とは全くの別物。
外はカリッと、中はモチッとした弾力があり、しっかりとした厚みのある皮を噛めば噛むほど、鶏の旨味とコラーゲンが滲み出てきます。あぁ、本当に美味しい。1人でペロッと平らげてしまいました。
こちらのお店は、秋田県内を始めとする地酒の種類も豊富で、純米系が揃っているのも嬉しいところ。これまでご紹介した逸品ぞろいの肴たちを見ていただければ、僕がどれだけ飲んでしまったことか、想像していただけることでしょう。
そんな酔いどれが〆に選んだのは、あきたこまちとざっぱ汁。ざっぱ汁とは、魚のアラで作る汁物や鍋物のことで、じゃっぱ汁と呼ぶこともあります。地域によってざっぱとじゃっぱの違いがあったり、中に入る魚や味付けも様々なようです。
ざっぱ汁を注文すると、今日は塩味ですが大丈夫ですか?と聞かれました。ということは、日によっては味噌などもあるのでしょうね。それも食べてみたい!!
澄んだおつゆの中に、魚のアラとわかめがたっぷり入っており、お椀を近付けるだけで上品な磯の香りが鼻をくすぐります。
一口含めば、アラから出た濃厚な魚の旨味が広がり、幸せいっぱい胸いっぱい。これだけ魚のダシが出ているにも関わらず、生臭さは全くありません。
ごまかしの効かない塩味で、こんなに美味しいおつゆが出来るのは、ひとえに魚の新鮮さと作られた方の腕の良さなのでしょう。
つやつやのあきたこまちと一緒に頬張れば、あぁ日本に生まれて良かった・・・、としみじみ思わせてくれるような逸品でした。
秋田の旨いものと旨い酒にお腹も心も満たされ、お店を後にします。外のひやっとした空気が、お酒で火照った体に気持ちいい。そんな秋の東北の空気を感じながら、ゆっくり秋田駅を目指して歩くのでした。
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