すがすがしい、山間の宿での目覚め。昨日から相変わらず気温は低いままで、ストーブを消していた部屋は冷え切っていました。冷たい空気を振り切るように、起床後すぐにお風呂へと急ぎます。
温泉に泊っていつも思うこと。星空や夕暮れなど、様々な情景の中で温泉に入る機会がありますが、やっぱり朝風呂が一番気持ちいい。
少しだけ寝ぼけた頭をすっきりとさせてくれる、凛と張りつめた空気と心地良い熱さの溢れるお湯。この気持ち良さは、泊った者にしか味わえません。まさに温泉の醍醐味。
朝の空気とお湯で身も心も清められ、爽やかな気持ちでの朝食。湯豆腐に納豆、海苔にお魚、お浸しなどの、ホッと安心する純和風の品々が並びます。昨夜からたくさんお風呂へ通い、若干入浴疲れしてお腹を空かした身体に染み入るような優しさがあります。
温泉へ来てこのような朝食を食べると、朝食の必要さを再認識させられます。普段は一分一秒でも寝ていたいので朝食を抜いてしまっている僕ですが、このような和朝食を食べると、やはり1日調子がいい。
なにより、身体だけでなく、気持ちや頭まで目覚め、リズムを作ってくれます。必要と分かっていても抜いてしまう、そんな日常生活を見直さなければならないのかもしれませんね。
美味しい朝食の後、もう一度お風呂へ。これがこの旅最後の温泉。いつもこの最後の一浴が名残惜しくて仕方ありません。悔いの残らないようお湯と絶景を記憶に焼付け、心の中で再訪を願い、黒湯温泉を後にします。
昔話の世界からそのまま飛び出したような黒湯温泉。そこには見かけだけの風情ではなく、古くからの湯治場としての暖かさが溢れていました。お湯が、景色が、出会いが、全てが心に沁みてくる。本当にいい時間を過ごさせてもらいました。
黒湯温泉のチェックアウトは9時と少し早め。駅行きの路線バスまでしばらく時間があるので、のんびり雪景色の中を散策しながらバス停まで向かうこととします。昨日来た駐車場とは反対方向へ進みます。
おととい降った雪は溶けることなく、散りゆく紅葉を優しく受け止めています。この奇跡の組み合わせを見ることができた幸運、山の神に感謝せずにはいられません。
紅葉に被われた小径を下り、川沿いへと出ます。そこにあるのが、孫六温泉。乳頭温泉郷の中で、僕が唯一入ったことの無い温泉です。こちらも鄙びた味のある造りで、ぜひ次回は泊まってみたい、そう思わせる宿。
孫六温泉へと渡る橋上からの眺め。この上流すぐのところに、先程まで滞在していた黒湯温泉があります。ほんの少し移動するだけで、景色がガラッと変わります。黒湯から見る紅葉した山の遠景も印象的ですが、こちらの間近で見る紅葉も捨てがたい。
狭い地区に密集する乳頭温泉郷ですが、それぞれが全く違った表情を見せ、それぞれが唯一無二の秘湯である。そんなところが、乳頭温泉の魅力なのでしょう。
孫六温泉から川沿いを行けばバス停まで着くのですが、今回は普通のスニーカーで積雪による道の状況が読めなかったため、つづら折りの舗装路を登り昨日来た駐車場へと戻ります。
駐車場からの道は、黒湯と孫六までの一本道のため、車も滅多に通らず快適に歩くことができます。雪と紅葉のコラボレーションを名残惜しく思いつつ眺め、木々のざわめきのみを聞きながら、ゆっくり、のんびり歩きます。
先程の道路を下りきったところが休暇村のバス停なのですが、まだまだバスまで時間があるので、乳頭温泉郷を結ぶ道を始発のバス停まで散策します。
途中川沿いにあるのが、妙の湯。ここは僕が初めて乳頭温泉郷に来たときに泊まった宿。館内は女将さんによって和モダンのオシャレな雰囲気になっており、秘湯ビギナーや女性にも優しい宿。
自慢の温泉は、金の湯、銀の湯と呼ばれる2種類の泉質があり、黄金色に輝くにごり湯と、肌に優しい透明な温泉が印象的。お食事もとても美味しく、もう一度泊まりたい宿です。
妙の湯から上ることすぐのところに、大釜温泉があります。こちらは旧分校舎を移築したもので、学び舎の雰囲気を色濃く残す印象的な建物。軒下に無料の足湯があるので、バスの待ち時間に利用させていただくのもいいでしょう。
こちらは以前立ち寄り湯として利用しました。肌にピリピリくる、いかにも温泉!という白濁湯。結構熱めだった記憶がありますが、そのときは源泉掛け流し初心者だったため、そう感じたのかもしれません。今なら心地よく入れそうです。
大釜温泉と乳頭温泉バス停は目と鼻の先。程なくして『羽後交通』のバスがやってきました。時間が無かったため写真は撮れませんでしたが、バス停からすぐのところ、この道の終点に蟹場温泉があります。
この蟹場温泉は、記念すべき僕の初乳頭温泉郷である思い出の場所。会社の仲間と初めて訪れた秘湯。自然林の中、ポツンと佇む静かな露天風呂は、あまりにも衝撃的でした。
それは、僕のその後の人生までをも変える(大袈裟?)出会い。それまで海沿いの食事の美味しい大型旅館が好きだった僕を、一瞬にして秘湯の世界へと誘ってくれました。
新幹線とバスで来られるアクセスの良さ。それでいて狭い地域にありながら個性の光る一軒宿たち。僕が秘湯の虜になってしまうのも当然とも言える魅力が、乳頭温泉郷にはぎっしり詰まっています。
できることなら、全ての旅館に泊まりたい。泊まってじっくり味わいたい。来れば来るほどに、そう強く思わせる魅惑の温泉郷。
残念ながら、自宅からここまでは決して近いとは言えない距離。交通費もバカになりません。運良くこれまで三度訪れることができましたが、次はいつ来ることができるかは、今は分かりません。
それでも、必ずまた来ることができるはず。そのために日々を頑張らなければ!と強い決意を胸に抱きつつ、バスに揺られて乳頭温泉郷を後にするのでした。
濃密なこの旅もいよいよ佳境。最後の目的地は、以前から行ってみたかった憧れの場所、角館。新たな街との出会いに胸が弾みます。
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