白神山地の神秘に触れ、秋に彩られた自然に大満足し、再び十二湖駅からリゾートしらかみに乗車。この日3号に充当されていたのは、初代リゾートしらかみの青池編成。この車両から、リゾートしらかみの歴史は始まりました。
先ほど、本物の青池を見てきたばかりで、それもその青さに心を動かされた直後に乗る青池編成には、なにか特別なものを感じてしまいます。
3編成あるリゾートしらかみには、それぞれ愛称のロゴが貼られています。青池、橅、くまげら、それぞれ白神山地の自然をモチーフにした編成は、どれも個性があっていい。
ただ眺めが良く快適だというだけでなく、乗ること自体が楽しくなりそうなデザインからは、JR東日本の「本気」が感じられます。
この青池編成は、まもなくの引退が決定しています。大改造を施され、見た目こそ新しく見えますが、元になった車両は古老の域。長い間走頑張ってきた車両の最後の輝きに触れることができ、感慨もひとしおです。
この車両と入れ替わりに、今度は最新型のハイブリットリゾート列車である、新しい青池編成が走り始めます。
高速道路1000円に押され、鉄道業界が不況といわれる中、古い車両の改造ではなく、最新の技術を取り入れた専用の新車を導入するあたり、JR東日本の心意気を感じます。
それも特別料金無しの快速列車。やはり鉄道は、いつまでも身近で、それでいて憧れの存在で有り続けなければなりません。
秋田からは山側の座席でしたが、十二湖からは海側の座席を取ることができました。低く垂れ込めた雲の下に広がる、鉛色の海原。これぞ日本海、という景色がダイナミックに広がります。
天気が良ければきれいな青い海のはずですが、これはこれで、ある意味旅情を掻き立てられて好き。
リゾートしらかみの特徴といえば、なんと言ってもこの窓の広さ。腰から天井近くまで広がる窓からは、五能線の大自然が飛び込んできます。
海側なら勇壮な日本海。山側なら雄大な白神山地。どちらに座っても、満足のいく景色が広がること間違いなし。
この日は風がきつく、徐行運転が始まりました。本来なら千畳敷駅でしばらくの散策タイムがあるのですが、今回は遅れのため中止。
後に乗り継ぐ列車に間に合うかどうか、ちょっとした不安を抱きつつも、こんなハプニングも旅のスパイスだと割り切って楽しむこととします。
長い列車旅になることが予想されたので、ドカっと腰を落ち着けて満喫することに。車内販売で購入したしらかみ弁当とワンカップを。山廃純米白神山地の橅、という鰺ヶ沢は尾崎酒造のお酒です。
そう言えば、今日食べたものは全て白神づくし。リゾートしらかみの中で白神づくしとは、なんとも贅沢です。
蓋を開けると、山海の幸がぎっしり詰まっています。ご飯は茶飯に栗が載ったもので、おかずの味を邪魔しない程度の薄味。栗も程よい甘さでホクホクし美味。
目を引く青森らしいイカの姿煮は、胴からゲソまでイカの旨みが全て味わえます。蕗や舞茸、揚げといった煮物も適度な塩梅で煮付けられており、ご飯にも日本酒にもバッチリ。
ホタテも丁度良い火の通し方で、これまた酒が進む。青森はホタテが美味しいですね。これまた中央で目立っているニジマスの甘露煮は、甘露煮独特のほろりとした食感と凝縮した旨味がたまらない。
塩鮭は最近にしては珍しい辛口で、塩辛い中にも鮭の旨みが詰まっており、お酒とご飯が止まりません。奥に隠れた厚焼き玉子も、ネギが入っていて風味の良い、なんだかホッとする懐かしい味。脇に添えられたそばの実なめこや小肌と菊の酢の物もいい味を出しています。
こんな美味しい駅弁にぴったりのワンカップ。日本酒らしい強さとコクを持ちつつ、辛口で飲み応えのあるお酒。甘露煮や塩鮭といったしっかりした味のお弁当にも負けない、それでいて料理の旨みを引き立てる、相性バッチリのお酒です。
駅弁と日本酒というベストカップルを愉しみながら眺める車窓は、ダイナミックそのもの。切り立つ奇岩にぶつかっては弾ける波しぶきは、刻一刻とその姿を変え、いつまで見ても飽きることがありません。
ここでもうひとつハプニングが。今夜の宿に到着が遅れるかもしれない旨の連絡を入れたところ、なんと予約が入ってませんの返事が。
確かに、電話したときも連絡先すら聞かれず、本当に平気なの?と思っていたのが、見事的中しました。でも、お部屋も食事も用意してもらえるとのこと。今まで順調に進む旅が多かったので、いい経験をさせてもらいました。
列車は強風の為、依然としてノロノロ運転。そんな中、五能線が海に最接近するであろう区間に差し掛かりました。
消波ブロックに次から次へと荒波が襲い掛かり・・・、
こうなって・・・、
ついには車両が直に波しぶきをかぶってしまいました。窓側に乗っている人はみんなビックリ。大迫力です。これでは通常運転できないのは納得。動いてくれるだけで充分です。
風は強いままですが、強風のおかげで雲の切れ間ができてきました。隙間から太陽に照らされた海は、その部分だけキラキラと輝きを放ちます。期待していなかった晴れ間なだけに、嬉しさも別格。
リゾートしらかみでは、車内でイベントを行っています。この日は鰺ヶ沢から五所川原までの間で津軽三味線の生演奏を行っていました。
先頭車両の展望スペースで演奏は行われますが、各車両のスピーカーから放送されるので、自分の席に居ながらにして楽しむことができます。
あまり民謡などは聴かない僕ですが、津軽三味線は好き。湿っぽさとは違う、独特の力強さ、勇ましさが体の隅々まで沁みわたります。厳しい自然の中で暮らす青森の方々の強さを分けてもらった、そんな気がします。
そして車窓にはこの景色。三味線の勇ましさと大地の雄大さ。目から耳から心から、全てが青森に満たされてゆきます。
三味線の演奏も終わろうとしている頃、更に青森に来ていることを実感させてくれる、リンゴの木。まもなく収穫期を迎えるであろう赤い実が枝もたわわに実っていました。
五所川原駅では、津軽鉄道の車両を見ることができました、津軽鉄道といえば、ストーブ列車で有名な路線。一度は乗ってみたい、これまた憧れの路線です。今回五能線の旅が叶ったので、いつか必ず、という強い決意で見送りました。
反対側の車窓には、暮れつつある空の中、裾野を広げる岩木山がシルエットとなって聳えていました。こうして眺めると、津軽富士の名の通り、きれいな形をしていることが良く分かります。
強風の為にかなり遅れて弘前駅に到着。乗り継ぎ予定の特急列車の時刻から2分ほど過ぎていましたが、運良くその特急も遅れていたため、なんとか乗り継ぐことができました。
そのため、リゾートしらかみとのお別れは少々あわただしいものとなりました。本当はもう少しまったりと余韻に浸っていたかったのですが、これも鉄道旅行の宿命。
その時ごとに状況が変わり、予想通りには行かないときもある。だからこそ味のある旅になることもあるのです。
弘前駅から3両編成というなんとも短い特急かもしか号に乗り継ぎ、無事に碇ケ関に到着。ここから送迎の車で宿へと連れて行ってもらいます。
10月とは思えないほどの寒さのこの日。冷えた身体を温めてくれる薬湯まで、あと少しです。
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