温泉効果で濃厚な睡眠を取ることができ、6時にすっきり目覚めました。一晩中布団の中でポカポカ。その勢いで部屋から出ると、ビックリするほど寒い寒い。
ふと廊下から外を見てみると、なんと雪が積もっていました。10月なのに雪、こんな景色は想像してもみませんでした。
ストーブと曇った窓越しに見る雪景色。まさに山の宿の風情、画になる朝です。こんなに外が寒くても、寒さを感じずに熟睡できていたのは、やはりここの温泉の効果なのでしょう。ストーブを消していた部屋も、すっかり冷え切っていました。
10月とは思えない寒さに、たまらずお風呂へ一直線。もうこの頃になるとすっかりここのお湯の虜になってしまいました。あの独特の匂いにも病み付きになり、深呼吸すらしてしまいます。
清々しい朝風呂で再び温もりを取り戻した後は、待ちに待った朝食です。いつもは朝ごはんを食べない僕ですが、温泉に来るとなぜか食欲満点になってしまいます。本来はこのような規則正しい生活が健康の元なのでしょう。普段の生活がいかに乱れているかを思い知らされます。
朝食の献立も、きんぴらや焼鮭、納豆などの健康的な和朝食。温泉で浄化されたかのように軽くなった身体に、和食の旨さが染みていきます。
チェックアウト前に、宿の方が源泉が見える場所まで案内してくれました。旅館部から年季の入った味のある湯治部へと入り、、奥の奥まで進んでいきます。今度はこちらの湯治部にも泊まってみたいと思わせる、そんな古きよき木造の建物。
パイプからドボドボと沸き続ける源泉。湯船にもたくさん掛け流されていましたが、これでも使い切れずに捨てているそうです。なんとも贅沢。
タンクの周りに付着しているのは塩だそうで、この塩を付けて食べるきゅうりはとても美味しいのだそう。きっと色々なミネラルを含んでいるので、味の濃い塩なのでしょうね。一度口にしてみたいものです。
ウワサ通りの超・個性的なお湯を愉しませてくれた秋元温泉ともお別れ。滞在中、結局7回ほどお風呂に入ってしまいました。
昨晩、送迎車の中で宿の方が言っていたこと。愛想も無い、何も無い湯治の宿。でも、温泉だけはある。温泉にだけはかなりのこだわりがあり、湯船を洗う際は洗剤は絶対に使わず、汗水垂らしてひたすら擦って掃除をするのだとか。
とにかく源泉100%の純粋な掛け流しへのこだわり。それがあるからこそ、観光地でも無い、宣伝もしない、そんな湯治場にたくさんのお客さんが訪れるのです。こちらの宿が賑わっている理由、それが何となく分かりました。記憶に残る温泉をどうもありがとう。
宿の方にお礼を言い、送迎車を降りて碇ヶ関駅へ。山の上にはうっすら雪化粧。10月に雪が降るなんて滅多に無いこと、そう宿の方も言われていました。思いがけず雪景色を見ることができ、期待していなかっただけにより一層の喜びを感じます。
碇ヶ関からは、秋田行きの特急列車、かもしか号に乗車。それにしても3両編成とは短い特急です。このかもしか号、この旅が最初で最後の乗車となってしまいました。12月の東北新幹線新青森開業に伴い廃止が決定しています。
ただ、この路線から特急列車が消えると言うわけではなく、つがる号と名を変えて運行は続けられます。この車両は、多分その時に引退することになるでしょう。また一つ、くちばし付きの特急型が姿を消します。
車内は国鉄の面影をそのまま残しています。仕切り扉や椅子の布地は辛うじて交換されていますが、独特の肌色のような壁や天地の狭い窓、起きるか倒れるかしかないリクライニング、そっけない蛍光灯。床下からは唸り続けるモーター音とその振動。全てが国鉄の記憶を呼び起こします。
小さい頃に乗った、臨時のあずさ号。臨時列車が運転される時期だけあり満員。車内はお酒と乾き物、タバコの臭いで充満し、酔っ払いの賑やかな声が絶えず繰り返される。
まだまだ背の小さかった僕は、椅子に座ったまま背伸びをして、真っ暗な車窓をただただ眺める。夜空には左右に動く待宵月、それを飽きもせず、三鷹に着くまで目で追っていた。
そんな僕にとっての鉄道の原風景が、今鮮やかに甦ります。決して快適とは言えない。揺れる、うるさい、殺風景。でもそんな国鉄型には、今のただオシャレで快適だけな特急型には無い、言葉にできない情というものが備わっている。
多分それは、ほんの20年程度で急激なハイテク化を遂げた日本人が、過去に置いてきてしまった忘れ物そのものなのではないか。そんな気がしてなりません。
幼少の頃の記憶を辿りちょっとした感傷に浸っていると、山から霞が生まれる、そんな幻想的な風景を見ることができました。
晴れの日には晴れの美しさ、曇りには曇りの美しさ、それぞれの美しさがある。日本には四季があり、豊かな表情を見せる天気がある。
その組み合わせにより無限大の美しさを見せてくれる日本の自然。これを美しいと思える感覚も、また日本のいいところ。心の根底にある部分は、死ぬまで失わずに大切にし続けたい、そう思わせる風景。
列車は坂をどんどん下り、平野へとたどり着きます。遠くに見えるは白神山地。僕は昨日、あの向こう側にいました。それはつい先程のことのようでもあり、ずっと前のことのようでもあり。凝縮された濃密で上質な旅である証拠です。
五能線の起点である東能代駅に到着。留置線には、昨日は無かった新型リゾートしらかみ青池編成が停まっていました。思いがけず実物を見ることができ、少しばかり鉄の血が騒ぎます。
2時間足らずの国鉄の旅ももうすぐ終わり。秋田駅から秋田新幹線に乗り換え、今夜の宿のある田沢湖駅を目指します。
コメント