いよいよ待ちに待ったあけぼの号が入線してきました。上野駅へは、推進運転という、所謂バックのような状態で入ってきます。
次回のダイヤ改正以降も運転続行が決定していますが、やはりブルートレイン自体が風前の灯火といっても過言ではないこのご時世、写真を撮影しにたくさんの人が集まってきました。
この日のあけぼの号は8両編成。電源車と機関車を含めても10両編成なので、先頭まで苦労なくたどり着くことができます。
客車の後部に輝くマークも美しいのですが、ごつい機関車の先頭に掲げられた立派なヘッドマークは、やはり客車列車の顔と言えます。
国鉄時代から今なお受け継がれる、無骨でありながら温かみのある勇姿。あとどれくらいの時間、この姿を目にすることができるのでしょうか。
機関車のすぐ後ろに連結された電源車。中にはディーゼルエンジンが搭載されており、大きな唸りを上げ、客車で使用する電気を発電しています。
実は、意外と僕が好きな車両。全て床下で賄ってしまう電車やディーゼルカーと違い、こんな発電専用の車両をくっ付けなければならないアナログなところも、古きよきブルートレインの味なのです。
また、いつもならなんだか締りの無いと思ってしまうJRマークも、ここまでドン!と存在感をだされると、なんだかこれはこれでカッコいいと思えてしまいます。
東京近郊ではすっかり目にする機会が減った、方向幕(幕式の行先表示)。最近ではLED化が進み、どれも似たり寄ったりの表示となっていますが、昔ながらの独特なフォントで書かれた行先からは、デジタルでは出せない旅情が滲み出てきます。
こちらが今回僕の乗る6号車。車内は2層式の一人用個室が並んでいるため、上下2段に窓が並ぶ独特の外観となっています。
それにしても、この編成に使用されている客車はピカピカできれい。塗装の浮きや剥がれもなく、北斗星よりもきれいに見えます。
ホームから思う存分ブルートレインの編成美を楽しみ、いざ車内へ。同じB寝台一人用個室ソロといっても、定員増を図ったこのタイプの客車は、北斗星のものとはレイアウトが異なっています。
車両中央を狭い通路が貫き、その両側に個室が並ぶというもの。普段通路側にも窓がある車両に慣れているので、若干の圧迫感を感じました。大型のキャリーバッグなどを持っていると、通行は厳しいかもしれません。
若干の狭さは否めないものの、ダウンライトや半間接照明、木目や金が所々に配されたインテリアは中々のもの。結構いいムードを醸し出しています。この数段の階段を登ると、左右に上段個室の入り口があります。
バスルームのような折り戸を開けて室内へ。上段は狭い室内に残りの階段を組み込んでいるため、ベッド部分が半分に折り畳まれているという独特の造りとなっています。
背中のリュックがつかえながら、なんとか室内へ。ベッドの下に隠れる部分に荷物を下ろし、ひとまず足を伸ばしてくつろいでみます。
そしてこちらがベッドを展開した状態。寝台幅は通常のソロとは変わらないので、寝るには不便はありません。
入線から出発まで30分ほど時間があったので、色々見て回ってもまだ時間にゆとりがありました。さっさと落ち着いて夜行列車の出発を味わいたかったので、手早く浴衣に着替え、ベッドメイキングをしました。
リュックから必要なものを取り出し、一夜を過ごす準備を整えます。そして照明を落とし、その時をじっと待つ。寝台列車の旅は、いつもこの瞬間がゾクゾクします。
遠くからかすかに聞こえるベルの音。直後、ガタンという小気味良い衝動と共に、列車は音も無く上野駅のホームを滑り出しました。これから秋田まで、9時間半の夜の旅が始まります。
列車は少しずつ速度を上げ、リズムを刻み始めました。車窓には鶯谷の夜景が。これからしばらくの間、携帯も繋がらないようなところでこんな俗世から隔離されると思うと、軽い身震いすら覚えます。
列車は快調に鉄路を滑り、荒川へと差し掛かりました。待ちに待った東京脱出。普段意識することの無い都県境の川も、こうしてブルートレインに乗って渡れば、意味のあるものに感じます。
東京脱出を祝し、ささやかな一人の祝宴を。上野駅ナカで仕入れた赤ワインとチーズで、今夜はちょっとオシャレに乾杯です。いつも列車旅には日本酒、と決めている僕ですが、たまにはこんな旅立ちも悪くありません。
狭い、狭いと言っている室内ですが、このタイプの個室は北斗星タイプより窓が広いのが特徴。この大きな窓を一晩誰にも邪魔されず、独り占めするこができます。
撮影用に照明を付けていますが、室内を真っ暗にすれば、街の明かりが流れてゆきます。心地よい揺れに身を委ね、軽快な鉄路の響きをBGMに流れ行く車窓を眺めれば、もうそれだけで夢心地。ワインがより一層、美味しいものとなります。
関東平野を北上し、埼玉県を出ようかというところで雨が降り出しました。この日の予報は雨。そして、旅行期間中の北東北の予報も雨。覚悟はしていましたが、やはり旅立ちの雨には、少しブルーになってしまいます。
心地よい酔いに身を任せ、車窓を眺めることに没頭していると、気が付けば高崎駅に到着。ここから線路は平野を捨て、上越国境の山越えへと挑んでいきます。
本当は関東を脱するまで起きていようと思っていましたが、秋田到着は6時45分。その前には起きて身支度を整えておかなければならないので、寝る準備を始めます。室内へ開くタイプの折り戸ですが、ベッドを展開していても開けることはできます。
足元はこんな感じ。ベッドに腰掛けてスリッパを履き、そのままカニ歩きで外まで出る、という具合です。でも、これができるのは僕くらいの体型が限度と思われます。僕はまだ一応メタボの基準値までは達していないのですが、それでもやっと。
無理をすると扉にぶつかったり、階段を踏み外したりする危険があるので、無理かな?と思った場合はきちんとベッドを畳んだほうがいいでしょう。
デッキへ出ると、こんな懐かしいものが。今となってはすっかり姿を消した冷水機。横にはもちろん、ダイヤルで引き出す折りたたみ式の紙コップが備え付けられています。
そういえば小さい頃、列車に乗るのが珍しかった僕は、喉も渇いていないのに冷水機で水を飲むことを口実に、車内を見て回ったのを覚えています。誰しも子供の頃に一度は経験したことがあるのではないでしょうか。
とは言えども、このあけぼの号、車内販売も自販機もありません。ですから本当に喉が渇いた時用に、この冷水機が役立つのです。そうならない為にも、前もって充分な食料、飲料を仕入れておくことを強くおすすめします。
時刻はまだ0時前。明日の早起きに備え、寝台の旅にしては珍しく早めの就寝となりました。背中から伝わってくる規則正しいリズムに誘われ、深い眠りの世界へと落ちてゆくのでした。
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