木枠の窓から差し込む眩しい朝日。その優しい煌めきに起こされる、秘湯での贅沢な朝。こんな生活も今日で終わり。福島の燃えるような秋を自らの足で体感してきた旅の最終日を迎えました。
清々しい朝風呂を楽しみ、朝日に包まれながらの朝食。お膳には焼き魚や筍の煮物、こんにゃくやラジウム卵など、これぞ秘湯の朝食、といったメニューが並びます。
秘湯で癒された身体と心に染みる、日本の味。海沿いの宿の豪華な朝食もいいですが、こんな心温まる朝食が、今の僕には嬉しい。
昨日は暮れかけた中急いだこの道を、今日は朝日の中のんびり下ります。
不動湯温泉。大型ホテルの並ぶ土湯温泉からほんの少し入っただけで、本当の秘湯というものを味わわせてくれる宿。昨日の道中と共に、僕にとって忘れられない場所となりました。ありがとう、不動湯温泉。
土湯温泉から『福島交通』の路線バスに乗り、福島駅に到着。帰りのバスまではまだ時間があるので、ここで最後の福島グルメを堪能することとします。
福島駅近辺でお昼から福島のものを食べられる所というのがあまり無いようで、事前の調査でも見当たらず、現地を歩いても発見できませんでした。
そこで、以前会社の先輩と土湯に泊まった際に立ち寄ったおそば屋さんが美味しかったことを思い出し、そこにお邪魔することに。メインの出口とは反対側、西口にある『西口喜多屋』です。
ここは人気のお店のようで、次から次へとお客さんが来ておそばやセットを注文していきます。でもそんなことは気にしない、気にしない。僕は最後の福島の味と福島の酒を楽しむこととします。
まず注文したのが、そばの実入りとろろ。おそば屋さんらしくしょう油ではなくめんつゆを入れて頂きます。きりりと濃い目の僕好みのめんつゆがとろろの風味を活かし、香ばしいそばの実がいいアクセントとなっています。
湯気がもうもうと立ち上る、ミニ柳川鍋。前回食べて美味しかったのを思い出し注文。サイズも普通サイズとミニサイズと選べるので、お腹の具合に合わせられるのも嬉しいところ。
実は前回訪れた際に、初めてどじょうというものを食べました。何となく泥臭いようなイメージがあり、東京のどじょう鍋なんかは食べたいと思ったこともありませんでしたが、ここの柳川鍋は絶品。
泥臭さなど全く無く、ふわふわに煮られた淡白な身と、ごぼうの風味、つゆの味、卵の優しさが渾然一体となり口の中に広がります。もうお酒がいくらあっても足りません。銘酒奥の松を何度もおかわりしてしまいました。
続いて注文したのは、蕎麦屋のいかにんじん。福島の郷土料理であるいかにんじんにそばの実を加えたひと品。スルメと生のにんじんを漬けるという意外な組み合わせに初めて食べたときは驚きましたが、それ以来ファンになってしまいました。
にんじんの持つシャキシャキとした食感とほのかな甘さ、スルメの持つ噛めば噛むほど滲み出る深い旨味。これがお酒に合わないわけがありません。今日も福島泊ならば、延々と飲み続けてしまいそう。
旨いつまみに囲まれ、昼酒を三合ほど楽しんだ至福の午後。そんな昼下がりを締めるのは、やはりおそば。冷がけ天おろしそばというものを注文してみました。
出てきたのは、本当に冷たい掛けそば。僕のイメージした、濃いつゆが少量掛かったよく見る冷やしそばではなく、冷たいつゆがたっぷりと張られた冷たい掛けそばの姿に驚いてしまいました。
初めての対面にドキドキしながら一口すすれば、もう御満悦。つゆは飲んで美味しい程度の丁度良い濃さで、だからこそつゆに邪魔されること無くそばの風味を楽しむことができます。載せられたてんぷらも大ぶりでサクッと揚げられており、文句なしの美味しさ。
濃いつゆで食べる東京の冷やしそばも好きですが、こちらのスタイルのほうがそばの風味やちゅるちゅると啜る楽しさを感じられ、てんぷらがしょっぱくなりすぎることも無いという優れもの。
それぞれ違った美味しさはありますが、僕はこちらのほうが好み。初めての体験に目からウロコ、大満足の昼食となりました。
この旅最後の福島グルメを堪能し、福島での時間も残りわずか。福島駅ビルにはこれといった福島のお土産屋さんが無かったので、西口にあるコラッセふくしまというビルにある『福島県観光物産館』に立ち寄ることに。
ここではお菓子やお酒、農産物や工芸品など、福島県内のさまざまなおみやげ物を買うことができます。その種類の多さに、どれも買って帰りたい衝動に駆られつつ、持てる分だけを厳選してお土産としました。
福島のお酒とグルメに目一杯お金を傾けたかったため、帰りも高速バス利用で節約。『JRバス東北』と福島交通が共同運行するあぶくま号に乗車。早割りやネット割等を使えば、3800円ほどで東京へ戻ることができます。
福島駅を定刻に発車し、西日を受けつつ東京へと舵を取るバス。いつも旅行の帰りはこの時間帯になることが多いのですが、やはりこの瞬間に襲う寂しさは何とも言えないもの。西日がそれをより一層強いものとします。
バスは高速に乗り、あたりはだんだんと田園風景に変わり始めます。今日という日の最後の輝きに照らされる、秋の刈り取られた田んぼ。「郷愁」の文字が、浮かんでは消え、浮かんでは消え、僕の心を支配します。
淡い青に染められた空と、西日でシルエットとなった福島の山並み。日を受け銀に輝くすすきが流れゆく車窓を見つめるうち、この旅の想い出が走馬灯のように胸を駆け抜けてゆきます。
会津から中通りへ。4泊5日かけて秋の福島を堪能した旅もこれで終わり。
紅葉に彩られた鶴ヶ城も、柿実る里の風景も、色とりどりの菊が咲き乱れる姿も、絵の具をこぼしたかのように燃え盛る紅葉に包まれた旧道も。その全てが今まで見たことも無いほどの美しさをもって、僕を迎えてくれました。
そして、錦秋の岩代路に華を添える名湯・秘湯や銘酒、うまいものの数々。この旅で出会った全てのものを、僕は忘れることは無いでしょう。
東北という土地は、以前から僕の好きな場所。今いろいろと大変なことになっていますが、福島の自然はその美しさを惜しげもなく僕に見せてくれました。
東北の人や自然が作り出す恵みが東北に溢れる限り、僕は東北を訪れたい。そう強く再確認させてくれる、想い出深い旅になりました。ありがとう、福島。また来ます。
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