おーりとーり。このことばを目にしただけで、もう涙が出てしまいそう。その柔らかな字面と、独特の質量と香りをもつ南国の空気感。そのふたつに迎えられ、堰を切ったかのように感慨が胸から溢れ出し零れてしまう。
たかがひと夏、されどひと夏。35歳にして初めて経験した強烈な青さに心射抜かれ、それ以来毎年楽しみにしていた八重山の夏。だけど去年は、ここへ来ることは叶わなかった。そのひと夏の重みを味わったいま、溢れる嬉しさに比例するかのように何故だか苦しいほど胸が締め付けられる。
シーサー君、ひさしぶり!2年ぶりに、ようやく来ることができました。会えない寂しさを知った分、再会の瞬間が嬉しくて嬉しくて堪らない。二っと笑みを浮かべるシーサー君に、しばらくお邪魔させてねとあいさつします。
飛行機の、扉を出たらもう南国。2年ぶりに味わうこの感動を噛みしめつつ、『カリー観光』の直行バスに乗車し一路市街地方面を目指します。
おととしに続き、今年も6月中旬での訪問。前回はすでに梅雨明けしたことが明確に感じられるような夏空でしたが、今年は機窓に連なる雲からもわかるように、まだ梅雨明けしきっていないといった様子。
分厚い雲ではないけれど、夏よりも湿度を含んでいそうな曇天。本気の夏を迎える前は、こんな感じなんだ。まだ僕の知らなかった石垣の空に出逢い、さとうきび畑や宮良川のマングローブもまた違った表情で目に映ります。
真夏の曇り空とはひと味違う車窓を愛でつつ30分、バスは石垣港離島ターミナルに到着。屋根に凛と立つシーサーの背後には、薄い青さに染まる夕刻の空。豊かな表情を持つ、石垣の空。こんな顔を見せられては、四季折々全てを知ってみたくなる。
ぱいーぐる君、また来たよ!前回またねと言ってから、再開するのに2年かかるとは思っていなかった。去年は会えなかった分、再会の喜びはひとしお。
そして今年も、宿はここ。離島ターミナルや繁華街にもほど近い、『ベッセルホテル石垣島』に7泊お世話になります。
もうすっかりお気に入りとなってしまった、ベッセルホテル。ツインの客室には大きなベッドが並び、バストイレと別に設けられた洗面台が便利。さらに無料を謳う朝食も、郷土色ある内容でおいしいときちゃう。それなのに、ここ石垣だよ?という価格設定。僕らの滞在を支える大きな味方なのです。(本当はあまり教えたくない・・・)
そして窓の外は、お馴染みの港湾ビュー。リゾートの美しいオーシャンビューももちろん魅力的だけれど、船の行き交う港湾が青いという非日常感が意外と僕は好き。何となく、離島の中心である生の石垣島という感じがするのです。
ホテルに荷物を下ろし、早速2年ぶりとなる石垣の街へ。時刻はもう19時前。なのにそうとは思えぬ、この明るさ。あぁ、そうだよ、そうだったよ!と、早くも体内時計の修正が始まります。
今年はお店、やってるかなぁ。そんな心配をしつつ向かったユーグレナモールも、観光客は少ないながらも多くのお店が営業中。その様子に、心配で少しばかり強張っていた心もほぐれます。
街の人通りの少なさに今年もまだ大変そうだなと思ったのも束の間、この時間みんなお店で食事中の模様。石垣名物の「予約しないと夕飯食べられない」が復活していそうだったので、目の前でお客さんが出てきたばかりの『あじまー商店』に飛び込みで入ってみることに。
別の予約もなく、運よく空いた席を確保。この旅初のオリオンでほっと一息ついていると、お通しのパパイヤキムチが運ばれてきます。クセのない、しゃっきしゃきの食感がおいしい青パパイヤ。素材の魅力を活かした程よいピリ辛に、オリオンをグイっといきたくなります。
何度訪れても、魚の旨さに感動する石垣島。ということでまず頼んだのは、名物八重山産お刺身7種盛り。目を引く大きな赤瓦に盛りつけられて登場します。この日は仕入れの関係で、1種類少ない6種盛り。その分ちょっとお安くしてくれました。
左上の赤身はマグロ。瑞々しくもっちもちのまぐろは、本州のものとはもはや別の食べ物と言ってもいいくらい。石垣のまぐろ、間違いない。その隣は、程よい食感と旨味の詰まったフエフキ。さらに隣は、僕の大好物イラブチャー。青い魚が旨いって、何度経験しても堪らない南国感。
その下も、石垣で出会いすっかり好物となったセーイカ。分厚いもちっとねっとりコリっとの身に宿る甘味が堪りません。その左隣はオオマチ。今まで食べたことない(?)気がしますが、何とも上品でおいしい白身。そして左端は、クレー。これは食べたことあったような、なかったような。いわゆる王道の白身の旨さで、自ずと泡盛が進みます。
って、珍しく僕が八重山の魚の名を書いている。というのも、その日の魚の名前を書いた紙を渡してくれ、さらにQRを読めば調べることもできるという優れもの。沖縄の魚の見分けがつかない僕のような観光客には、なんとも嬉しい仕掛けです。
続いて頼んだ、この2品。沖縄名物のラフテーは、じっくり煮込まれた黒糖香る凝縮感ある旨さ。白身とともにもっちりプリプリのコラーゲン感を醸し出す豚皮が、また堪らない。石垣で初めて皮付きのラフテーに出逢って以来、皮のない角煮を食べるが気なくなりました。
島豆腐のガーリック揚げは、一見揚げ出しの様に見えてガツンとくるにんにく感。カリッカリに揚げられた島豆腐の表面と、中のとろりとした食感の対比がこれまた泡盛ロックを誘います。
2年ぶりに味わう、石垣での夜。いつもちょっとばかり飲みすぎてしまうので、最初となる今夜は少し控えめにしてお店を後にします。外へと出れば、ようやく暗くなった街並みが。それでも反対の西側にはまだ薄明かりが残り、やっぱり自分の住む街と時間軸が違うのだと否応なしに実感します。
あまりにも自分に染みついた時間軸とはかけ離れているのに、着いて泡盛飲めばもう馴染んでしまう。毎度のことながら八重山の懐の深さに心酔し、ほろ酔いの極上気分で宿へと戻ります。
おいしそうなメニューがたくさんあったあじまー商店ですが、控えめに切り上げたのには訳がもう一つ。それはA&Wをつまんでやろうという、ジャンキーな欲望。
塩分濃いめのクリンクルフライに、濃厚なチーズとこれまた濃いめのチリがたっぷり。ひとくちで、泡盛何口もいけてしまいそう。そんなA&Wの強さに負けずとも寄り添うのが、与那国は崎元酒造の琉球泡盛八重山。とてもおいしく、お土産に2本も買って帰りました。
今朝の早起きと旅の疲れ、そして久々の八重山という興奮に絆され程なく就寝。心地よく寝ていたところ、いやに眩しさを感じ思わず目が覚めます。すると夜空には、驚くほどの明るい月。思わず飛び起き、窓の外を見てみます。
寝静まった港を照らす、大きな満月。月あかり、その言葉を具現化したこの光景に、思わず息を呑んでしまう。
いよいよ始まった、2年ぶりの八重山旅。去年は八重山の青さにも、東北の緑にも逢うことができなかった。僕にとって欠かすことのできなくなってしまった八重山に身を委ね、本当の夏の始まりの予感に震えるのでした。
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