独特の雰囲気を持つ湯屋での湯浴みを堪能し、お腹も減ったところでお待ちかねの夕食の時間。個室の会場へと向かうと、テーブルには美味しそうな品々が並んでいます。
僕の好物である岩魚の塩焼きやかつおの他に、冷たいなすの煮物や、菊の酢の物、蛸とわかめきゅうりの酢味噌など、暑い夏にさっぱりと頂ける嬉しい美味しさ。
そして山形と言えばの芋煮は、濃すぎず薄すぎずのホッとする味付けで、お肉の旨味がしっかりと里芋に染みています。ローストビーフに使われているお肉も霜降りで甘味があり美味。
そして添えられた焼きアスパラの旨いこと!一見細く焼いてしなびていそうな見た目(失礼!)でしたが、噛んでみるとしゃっきりと心地よい歯ごたえで、中は瑞々しくジューシー。甘~いエキスが染み出てきます。こんな美味しいアスパラ食べたの、久しぶりでした。
この旅最初の東北での夕餉。そんな幸せな時間のお供に選んだのは、いつ飲んでも美味しい出羽桜純米吟醸。すっきりとした飲みやすさが、食事と一緒に楽しむのにピッタリ。
そしてこちらには、見るからに柔らかそうな色をした牛しゃぶが。お湯にくぐらせポン酢で食べれば、牛の甘味がポン酢の酸味とぴったり。見た目通りの口どけの良さに、旅館で美味しいお肉が出てくることに幸せを感じます。
隣の天ぷらは揚げたて熱々を運んでくれます。さっくり揚げられた天ぷらの主役は、やはりアスパラでした。こちらは太めのもので、筋っぽさは全くなく、これでもかという程甘い。山形のアスパラ、超旨い!!
出羽桜と共に旨い山形の幸をたっぷり堪能し、ご飯と浅漬けで大満足のフィニッシュ。もうお腹と心はパンパンです。
部屋へと戻り、敷かれていた布団に転がりしばしの休息を。お腹が落ち着いたところで、お風呂と本のゆっくりとした時間が始まります。そんな今宵の相棒は、宮城県は加美町の田中酒造店が造る、真鶴ふるかわ無濾過特別純米生貯蔵原酒。乗り換えで一旦下車した古川駅で購入。
無濾過特別純米生貯蔵原酒、僕の好きな心地の良い言葉がずらりと並んでいます。その名の通り、蓋を開けてひと口含むと感じるフレッシュさ。それでいて嫌な個性やしつこさはなく、すっと入っていく飲み口。
お酒と本に飽きたところで、赤倉の恵みを肌で感じることに。野趣あふれる独特のこの空気感に、もうすでにメロメロ。江戸時代から続く自然に囲まれた岩風呂を、そのまますっぽり建屋で包みました、という雰囲気。
その唯一無二の空間を、肌触りの良い無色透明の清らかな温泉に浸かって味わえるこの幸せ。落ち着きと、相反するワクワク感。お隣の瀬見温泉のローマ式風呂もこの上なく独特でしたが、この三之亟も一度入れば忘れられない独特さ。
そのワイルドさは浴槽だけではありません。洗い場なんて、草木の生える岩盤にボンっ!と埋め込まれたこの姿。一種のテーマーパークのようにすら感じられてきます。
上段の浴槽の横には、奥深くまで伸びる横穴が。以前はここからも源泉が引かれていたのでしょうか。どこまで続くか分からない手掘り隧道のような姿に、ちょっとした怖さも味わえます。
横穴の隣は、打たせ湯が落ちる小さな浴槽。こちらは熱かったので入れませんでしたが、注目はその奥に聳える大きな岩盤。鑿で掘ったような跡が無数に刻まれ、古い時代に手作業でこのお風呂が作られたことを物語ります。
その傷に混じり、丸や十字などの模様もちらほら。これらは古の入浴者のいたずらなのでしょうか、それとも、お城の石垣に刻まれた刻印と同じように、堀った作業者の証なのでしょうか。
以前は川沿いの崖であっただろう、この巨大な湯屋。その自然と人の造り上げた造形を、すっぽりとそのまま建物に収めてしまったような世界感に、心底心酔するのでした。
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