歴史の重みがずっしりと詰まった館内に圧倒され、早くもひと汗かいてしまった僕。ようやく本題のお風呂へと辿りつくことができました。
そして辿りついたお湯に、再びKO寸前。この見た目通り、濃~くて、濃~くて、濃い~んです♪黄金色に濁ったお湯には、うっすら油のような膜が漂います。
いざ入ってみると、印象通りの重厚な浴感。温泉の純粋な熱だけではない強さが、体をグッと押してくるよう。そして見た目もさることながら、香りもまた独特。土っぽく、金っぽく、そして石油っぽく。
浸かっているとブワッと汗が噴き出すので、逆上せないよう縁に腰掛け、見た目と香りを味わいます。元は天然ガス採掘の際に、偶然出たという強首温泉。ここ樅峰苑でもその源泉を引いていたそうですが、いろいろ事情があり敷地内で自家源泉を掘ったところ、このような湯量豊富で熱い温泉が出たそう。
この辺りは天然ガスが期待されたことだけあり、温泉にもその特徴が現れています。これでナトリウム-塩化物泉。所謂食塩泉と言っても、その振り幅の大きさに、温泉の楽しさを今一度実感します。
濃厚な源泉掛け流しのお湯に、出たり入ったりの繰り返し。すると、途中でふとこんなお湯に心当たりが。記憶を辿ると、高校生の頃に訪れた、北海道の豊富温泉に近いものがあるのです。
そう言えばあそこも油田開発の際に湧いた温泉だった。そうだ、これだ!まだ当時は、温泉はただ気持ちの良いもの程度の認識でしたが、それでも記憶にくっきりと爪痕を残していた豊富温泉。香りをきっかけに懐かしい思い出が甦り、僕の旅の記憶には温泉が無くてはならないものであることを強く実感します。
20年ほどの前の記憶を鮮明に呼び起こしてくれた強首の湯。濃厚で個性の強い、心地よいお湯が、僕の嗅覚を通して働きかけてくれたのでしょう。
でも実際は、この強首温泉の方がより一層濃厚かもしれない。湯上りの温まり方も強烈で、体に残る湯の香もまた立派。このお湯、僕の好みのど真ん中。自分を持った芯のある温泉、大好きです。
目で肌で鼻で、そして記憶でも味わえた温泉の余韻に浸る湯上りの時。ふと部屋に置いてあった案内に手を伸ばすと、そこには地酒のメニューがこんなにたくさん。いやぁ、夕食の時にどうしよう。喉の鳴る音が、嬉しい悲鳴として自分の中を駆け抜けます。
今回申し込んだプランは、貸切露天が1回無料で使えるプラン。部屋で一段落し、時間が来たところでフロントでカギを頂きます。そして下駄を履いて玄関から外へ。まだまだ昼の名残の暑さはありますが、木々から聞こえる声は蜩が優勢に。木々を渡る風にも、少しだけ涼しさが感じられます。
立派な母屋を背にし、まだ新しさの残る離れの貸切露天へと向かいます。その横には、青々とした葉をふさふさと茂らす立派な樅の木が。この樅の木こそ、このお宿の名の由来。ここへ移住した時に植えられたという樅の木たちは、樹齢400年近いそう。江戸時代からこの家とこの地を見守り続けてきた生き証人。
そんな宿のシンボル、樅の木に囲まれ湯浴みのできる、貸切露天。この建物に2つ用意され、こちらは四角い浴槽のこもれびの湯、もう一つは丸い浴槽の大樹の湯。樅の木の眺めが良いとおすすめだったので、こもれびの湯を選択しました。
自分のためだけに掛け流される、こってりとした自家源泉。視界の先には、四世紀近くを生きてきた樅の木々。お湯に身を沈めて目を閉じれば、お湯の掛け流される音と蜩の声が、耳の奥へと染みてゆきます。
こちらは露天なので、熱めの源泉でも浴槽は丁度良い温度。お湯と幸せに、肩までどっぷり浸かります。火照りを感じたら、背後に設えられた木のベンチへ。
雄物川から渡ってきた風が樅の葉を揺らし、僕の体を撫でてゆきます。その涼しさに、もう夕方であることを思い出します。そして聞こえる、カナカナカナ・・・の声。旅先での夕方は、何故こうも切なく感じるのでしょう。
お湯と風情に存分に浸かり、鍵を返しにフロントへ。すると貸切露天利用のサービスということで、きりりと冷やされたりんごジュースを頂きました。その名も空飛ぶりんご。何で空飛ぶなの?と思いながら缶を開けてひと口。
すると、そのすっきりとした爽やかさに驚き。100%のストレート果汁なのですが、いわゆる「りんご臭さ」のようなものはなく、胃へたどり着く前に湯上りの体に浸透してゆくような、すっきりとした優しさ。
青森で楽しめる、これぞ!という濃厚なりんごジュースも好きですが、この秋田の空飛ぶりんごは、僕の持つりんごジュースのイメージを、あっという間に塗り替えてしまいました。
未体験のフレッシュな美味しさに缶をまじまじと見てみると、裏には空飛ぶりんごという不思議な名前の由来が。秋田空港の近くに位置するりんご園で育てられたから、というのがざっくりとした由来なのですが、読んでいると、なんだかじんわりしみじみと、心に沁みてきます。ぜひ実物を飲んで、それから読んでみてください。
小ぢんまりとした無人駅、そして田んぼの広がる大河沿いの田園。そこにこんな屋敷とお湯が隠れているのか、と驚きの連続の強首温泉樅峰苑。そこで過ごす濃厚な時間は、まだ始まったばかりです。
コメント