旧肘折郵便局の中に飾ってあった灯籠絵。この時期肘折温泉にはたくさんの灯籠絵が飾られています。東北芸術工科大学と温泉街とがコラボしたイベント、ひじおりの灯。今年で9回目を迎えたそうです。
古き良き木造旅館の室内に浮かぶように灯されるあかり。その幻想的な姿に誘われるように、夜の肘折の街へと繰り出します。そこにあるのは、昼とは全く違った世界。
灯籠に描かれた絵は様々で、描いた学生さんのそれぞれの個性が表れるかのよう。表情の違う灯籠たちを眺めながら、浴衣と下駄で歩く夜の肘折の温泉街。すっかり涼しくなった空気が、旅の心の火照りを沈めるかのように体を撫ぜてゆきます。
夜に照らされた郵便局は、妖しい姿へと変貌を遂げ、それに誘われるかのように湯宿から客がふらふらと集まってきます。建物の前にはちょっとした露店と縁台が置いてあり、日本酒やビールを楽しめます。しまった、お財布を置いてきたことを後悔しても時すでに遅し。
古い木造りの旅籠の軒に揺れるぼんやりとした灯りたち。夏の夜を彩る温かみが歴史ある温泉街を満たす姿は、まさに幻想的のひと言。
軒下に泳ぐ金魚たち。しばし我を忘れぼんやりと眺めていると、これが夏の夜が魅せる夢か幻かのように思えてきます。
夏の肘折に泊まるなら、ぜひ夜に歩いて頂きたい。学生さん達の造り上げた世界感にすっかり酔いしれ、ちょっとした心の火照りを連れて部屋へと戻ります。
後二つ寝れば再び逢える夜の幻。それとはまた違う灯りの余韻に浸りつつ味わう、山形の酒。今宵は小瓶2種を愉しむこととします。まず開けたのは、ここ大蔵村の小屋酒造が醸す此君純米酒。すっきりとしながら柔らかい口当たりで、すいすいと飲める美味しいお酒。
地酒を飲んで落ち着いたところで、再びお風呂へ。こちらは貸切風呂で、鍵が開いていれば自由に入れるという予約の要らない気軽なシステム。
中に入ると木の香りが心地良く、早速入ろうと手を入れてみると、これが熱いのなんの。肘折の源泉がこのサイズの浴槽にたっぷりと掛け流されているので、容赦ない熱さになっています。
もったいないと思いつつ水で温度を調整し、ようやく入湯。木の浴槽は肌触りが良く、漂う香りとともに気持ちを落ち着かせてくれます。
次に味わうのは、やはり小屋酒造の、最上川にごり酒。このにごり酒が濃くて旨いこと。濃度がしっかりとしたにごり酒ですが、くどさやもたれ感はありません。が、ずっしりと舌に圧し掛かってくる満足感。嫌な甘ったるさも無いので、重いながらも飽きずに飲み切れる、とても好みのにごり酒。
そして再び肘折の恵みを味わいに。浴場が男女入れ替わっており、今度は大きな湯船が心地良い、あたたまりの湯が男湯に。
視覚的にも嗅覚的にもその濃さが判る肘折の湯。入れば今度は体がそれを感じます。特徴的な色と香り、そしてしっかりとした浴感。その全てを静かに感じる湯浴みは、ここへ来たことが正解だと心から思える贅沢な時間。
初めて訪れた山奥のいで湯、肘折温泉。そのお湯だけでなく、街の雰囲気や夜の灯りにまで心も体も染められるよう。夏の夜に浮かぶ幻のような一夜を、心の底から愉しむのでした。
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